PLMの会計論:プロダクト損益の難しさ:モノづくり革新のためのPLMと原価企画(7)(2/2 ページ)
本連載では“品質”と“コスト”を両立したモノづくりを実現するDX戦略を解説する。第7回は、プロダクト損益を導入する際の課題やルール設計の考え方、さらにE-BOMやM-BOM、Cost-BOMとの関係について紹介する。
プロダクト損益とE-BOM/M-BOM/Cost-BOM
あるべき会計の試行錯誤の一つとしてプロダクト損益を説明してきたが、その導入にはさまざまな難しさがある。
品質管理も同様で、新しい手法が全て簡単に導入できるわけではない。しかし、その検討過程で多くの気付きが生まれる。プロダクト損益も同じで、仮に導入がうまくいかなかったとしても、その過程で多くの気付きが生まれ、あるべき会計を議論する土台になるはずだ。
ここで、プロダクト損益を導入する際の代表的な難しさを挙げておきたい。
一番は、やはりルール構築である。例えば、設備/金型/治工具などの固定費については、減価償却の考え方を入れず、固定費回収の視点からそのプロダクトが負担する総額を決める。あるいは、固定費はできるだけチャージ化しない。このようなルールを一つ一つ定義していく必要があるのだ。
また、原価はさまざまな製品情報と連動させなければならない。代表的なものがE-BOM、BOP/M-BOM、Cost-BOMなどの製品情報である。詳細については別の機会に説明したいので、ここでは概略のみ触れておく。
案件の上流段階(企画開発品のGo/NoGo判断や、個別受注品の受注可否判断など)では、構想設計や見積設計のみが行われ、具体的な設計には着手していない。そのため、この段階のE-BOMやBOPも、大まかなユニット構成や主要機能部品が分かっている程度であり、詳細データは存在しない。
参考情報として類似案件の詳細なE-BOMやBOPをコピーして原価確認することは可能だが、それに基づいて原価管理を行うのは本質的には適切ではない。したがって、上流段階で把握できる製品仕様やユニット仕様から概算コストを算出できるコストテーブルを構築しておくことが望ましい。
参考になる類似製品やユニットが存在しない完全新規のユニットや部品については、コストテーブルによる推定が難しい場合もある。ただし、多くの場合は何らかの参考ユニットや部品が存在するはずだ。実際には、そのような参考ユニットや部品から原価を想定している。そうであれば、過去案件の製品仕様/ユニット仕様と実際原価をAI(人工知能)/ML(機械学習)で分析することで、コストテーブルを構築できる。
具体的には、重回帰(ステップワイズ)、正則化回帰、場合によっては階層ベイズモデリングなどを活用する。こうした分析には、製品仕様やユニット仕様をBOM属性として管理する必要がある。厳密にはPN属性とPS属性に分けて管理する。そのためには、3D CADの属性やフィーチャー情報を抽出する工夫も必要になる。また、ERPから原価情報をフィードバックする仕組みも欠かせない。
これらのデータを活用することで、製品レベルやユニットレベルの概算コストをE-BOMやBOP/M-BOM上で管理できるようになる。
上流工程においては、もう一つ重要な情報がある。予算や目標原価である。E-BOMやBOP/M-BOMは、あくまでも見積原価の管理に用いる。それは、その時点における実力値としての原価である。一方、予算や目標原価は実力値ではない。売価から利益を先取りした目標値である。
そして、その予算設定の考え方はE-BOMの構成とは異なる。E-BOMは「性能保証」の単位であり、Cost-BOMは「予算策定」の単位である。このE-BOMとCost-BOMの違いも、データモデルを複雑にする理由の一つとなっている。
このように、案件上流での原価管理や意思決定を高度化するには、さまざまなデータ連携が必要になる。そして、こうしたデータモデルの複雑さが、実際の構築を難しくしている。
ここまでの内容は少し難しく聞こえるかもしれない。しかし、その多くは現状でもExcelによる原価管理の中で行われていることである。コストテーブル部分は勘見積のためデータ化されていないかもしれないが、多くの業務はExcelや人手によって実施されている。それをPLMやBOM管理へ移行する取り組みとして捉えれば、データ構造への理解は深まるはずだ。
つまり、属人的なExcel原価管理で行われている業務を、一つ一つルール化していく作業に他ならない。決して簡単ではないと思うが、長期的な視点に立てば、Excelによる属人管理に限界があることは、多くの人が感じているはずだ。これを機に、プロダクト損益の検討を進めてもらいたい。
筆者プロフィール
株式会社プリベクト
北山一真(きたやまかずま)
IT系コンサルティング会社、製造業系コンサルティング会社ディレクターを経て、プリベクトを設立。競争力ある製品/もうかる製品の実現のため、設計と原価の融合をコンセプトにした企業変革に取り組む。業務改革の企画/実行、IT導入まで一気通貫で企業変革の実現を支援。プロフィタブルデザイン、設計高度化、設計ナレッジマネジメント、製品開発マネジメント、原価企画、原価見積、開発購買、ライフサイクルコスティング、意思決定管理会計、BOM、PDM、PLMなどのコンサルティングを手掛ける。
著書に「儲かるモノづくりのためのPLMと原価企画<実践編>」(東洋経済新報社)、「儲かるモノづくりのためのPLMと原価企画」(東洋経済新報社)、「赤字製品をやめたら、もっと赤字が増えた!-儲かる製品を実現するコストマネジメント-」(日刊工業新聞社)、「プロフィタブル・デザインiPhoneがもうかる本当の理由」(日経BP社)ほか多数執筆。
◇企業情報:株式会社プリベクト
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