設計DXにより顧客価値を共創するシステム思考へ移行せよ:製造業DXプロセス別解説(4)(1/2 ページ)
製造業のバリューチェーンを10のプロセスに分け、DXを進める上で起こりがちな課題と解決へのアプローチを紹介する本連載。第4回は、製品を具現化するためのプロセスである「設計」のプロセスを取り上げる。
前回の「商品企画」編では、マスカスタマイゼーションの本格到来に向けて必要となる視点と、エンジニアリングチェーン、サプライチェーン全体の再構築の重要性について触れた。今回は製品を具現化するためのプロセスである「設計」について考えていきたい(図1)。
設計の大量生産化というレガシー
さまざまな製造業の方々と日々コミュニケーションをとらせていただいているが、経営層から若手エンジニアまで、現状の設計プロセスに課題を感じている方が多い。多くの製造業の設計プロセスは、日本が謳歌(おうか)した大量生産の時代を経て築き上げられたものであるが、大量生産の裏側で“設計の大量生産化”が行われていたことが語られることはあまりない。“設計の大量生産化”がどのように行われ、これからの時代の文脈に対してどのようなギャップを生み出しているかを考察することが、現状の設計プロセスの課題をひもとく鍵になると考える。
サイロ志向/積み上げ型設計の限界
大量生産の時代は「顧客価値=部品の機能」の時代でもあった。例えば、テレビの画質や自動車の燃費などがそれに相当する。そのため、部品設計の効率化に主眼を置き、以下の形で組織や設計プロセスを最適化することが、設計の大量生産化の近道であった。
- 製品の構成部品単位で組織をサイロ化
- サイロ化した部門ごとにノウハウを暗黙知し、部品設計の効率化を追求
これらを「サイロ志向/積み上げ型設計」と呼ぶ(図2の左側)。
一方、IoT(モノのインターネット)などでコネクテッド化が進む今の時代では、製品は社会システムやサービスのあくまで一部として捉えられるため、顧客価値は「部品の機能」から「顧客体験」にシフトしている。顧客体験価値は多様かつ変化も早く、部品を起点としたサイロ志向/積み上げ型設計では、市場変化へのタイムリーな対応が極めて難しい。このギャップが昨今の設計現場で、“要求の後出しじゃんけん”や“後工程でのすり合わせ”という形で顕在化していることに共感いただけるエンジニアの方も多いのではないだろうか。
また、差分開発や検証/QC管理のメニュー化、ルール化なども、設計の大量生産化の産物といえるだろう。組織活動の標準化による効率化は、一人一人のエンジニアから顧客体験価値を創造する機会とスキルを奪うリスクと表裏一体である。
システム思考/割り付け型設計への移行
設計と顧客価値の結び付きを再び取り戻すためには、以下の2つのポイントが重要となると考える。
- 顧客ニーズ起点での製品システムアーキテクチャの構想
- 最適なシステムを実現するための部品機能の割り付け
これを「システム思考/割り付け型設計」と呼ぶ(図2の右側)。
では、いかにしてサイロ志向/積み上げ型設計からシステム思考/割り付け型設計に移行できるのであろうか。その大きなボトルネックは、サイロ単位で構築された暗黙知にあると考える。
そもそもモノづくりの黎明(れいめい)期においては、顧客視点で製品システムアーキテクチャが企画/検討され、また各部品へ機能の落し込みがなされていたはずではあるが、サイロ化が進んだことによってこれらのつながりが見えなくなり、暗黙知化されてしまった。いま一度これらのつながりを形式知化、可視化し、設計プロセスとして再構築することができれば、システム思考/割り付け型設計への移行が可能となる。
ここでは、最新の設計方法論やデジタル技術を駆使してそれらを実現するアプローチを紹介したい。
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