Arm初のCPUチップ「AGI CPU」が顧客とパートナーにもたらす悲喜こもごも:Arm最新動向報告(18)(4/4 ページ)
Armの最新動向について報告する本連載。今回は、2026年3月にArmが発表した、同社が初めてCPUチップそのものを製造/販売する「AGI CPU」を解説するとともに、顧客やパートナーにどのような影響を与えるのかを考察する。
ハイパースケーラは大歓迎、マイナス影響を受けるのはどこか
この方針転換をパートナーはどう考えているのか。
まずハイパースケーラはもろ手を上げて歓迎している。今回のAGI CPUのプレスリリースの中で、AWS、Google、Microsoft Azureの3社は歓迎するコメントを残し、またOpenAIとMetaは基調講演そのものに出演した。ビデオメッセージでは他にOracleも登場している。こうした企業は、もうこれ以上NREを払わずに最新のNeoverseを利用できることになるからだ。もちろん自社製造よりもややコストは高くなるかもしれないが、NREを帳消しにするほどの価格差はないだろう。
TSMCやMicron/SK Hynix/Samsungといったパートナー企業に加え、Broadcom/Marvellも歓迎のコメントを出している。これらのメーカーは自社で製造(TSMC)、あるいはコンポーネント(メモリ/ストレージ/ネットワークコントローラー)の新たな売り先ができることになるから当然歓迎である。
興味深いのはNVIDIAで、CEOのジェンスン・フアン(Jensen Huang)氏が「われわれのパートナーシップは20年近く前に始まった。それ以来Armの優れた適応性により、当社のあらゆるプラットフォームやAIのあらゆる段階にArmを統合することが可能となった。われわれは共に、クラウドからエッジ、そしてAIファクトリーに至るまで、シームレスな単一のプラットフォームを構築している。今後もArmと共に未来を築いていくことを楽しみにしている」というコメントを残している。
NVIDIAは自社で「Grace/Vera」というCPUを開発し、次のFeynman世代には新しく「Rosa」というCPUを導入することを発表している。AGI CPUがこれらとぶつかるのでは? という恐れは当然あるのだが、実はこれらのCPUはNVLinkのインタフェースを搭載しており、GPUとCache Coherentを保った形で高速に接続可能である。だから現在のGrace BlackwellやVera Rubin、Rosa FeynmanなどのSuperchip(CPUとGPUが両方載ったキャリアボード)向けはAGI CPUに奪われる心配はない。
その一方、NVIDIAは「DGXシリーズ」の製品もラインアップしている。つまり8〜16枚程度のGPUを1つのシャシーに収めたもので、ホストとしてこれまでx86を利用していた構成だ。こちらが今後、急速にAGI CPUに置き換わる可能性が出てきた。もともとNVIDIAはGrace Hopperの世代でCUDAのArmアーキテクチャ移行を果たし、現在もArmアーキテクチャを重視する形で展開をしているが、DGXシリーズではx86のサポートも必要だった。これがAGI CPUに置き換われば、同じArmアーキテクチャになるので、その効果は大きいだろう。
意外に影響しなさそうなのが、富士通が現在開発中の「MONAKA」である。1つは、MONAKAはAI向けと言いつつHPC向けも重視していることで、大容量のL3キャッシュや2nmプロセスによる高速動作など、AGI CPUがターゲットとする効率重視というよりはやや性能重視に振れていることがある。もう1つは、2030年ごろに稼働予定の次世代スーパーコンピュータ「富岳NEXT」がNVIDIAのGPUを利用したハイブリッド構成になり、これに併せて富士通もNVLink Fusionのライセンスを既にNVIDIAから受けているので、NVIDIAのCPU同様にGPUとNVLinkでの接続が可能になる。この2点でAGI CPUとの差別化が可能である。
では影響を受けそうな会社は? というと、まずはAmpere Computingである。同社はNeoverseベースの「Ampere Alter」に続き、自社設計のコアを利用した「Ampere Oneシリーズ」を現在出荷しているが、AGI CPUはもろにこのAmpere Oneと競合することになる。
また、QualcommおよびMediaTekは、どちらもサーバ向けCPUを開発中である。両社ともにやはりNVLink Fusionのライセンスを受けているので、あるいはそこで差別化ができる可能性はあるが、富士通のように富岳NEXTというユーザーが明確に存在するわけではなく、これから市場開拓を行う中で、AGI CPUと競合するのはかなり厳しそうに思える。実際に、今回のAGI CPUのプレスリリースで両社は何のコメントも残していない(まだArmとの訴訟が終わっていないQualcommは当然であるのだが)。また、自社のネットワーク製品が売れるBroadcom/Marvellはともかく、GUCや(間もなくQualcomm傘下になりそうな)Alphawave Semi、ソシオネクストといったデザインパートナーはいきなりこれでビジネスが減るわけで、当然歓迎のコメントなどは出していない。こうした、一部のパートナーに不満が残りそうな方針転換は、今後のArmの方向性にどう影響を及ぼすのか、興味深いところだ。
昔話をすれば、もともとWarren East氏やSimon Segars氏(の前半)がCEOをしていた時代は、Armは大きく稼ぐのではなく細かく稼ぐ方向を貫いていた。そこから方針変更したのは、ソフトバンクによる買収後にIPO(新規上場)してからで、より大きく稼ぐ方向に方針転換している。その方針にのっとって考えれば今回の決定は不思議ではないのだが、IPビジネスの在り方にも影響が出そうな決断である。
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