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Arm初のCPUチップ「AGI CPU」が顧客とパートナーにもたらす悲喜こもごもArm最新動向報告(18)(3/4 ページ)

Armの最新動向について報告する本連載。今回は、2026年3月にArmが発表した、同社が初めてCPUチップそのものを製造/販売する「AGI CPU」を解説するとともに、顧客やパートナーにどのような影響を与えるのかを考察する。

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なぜArmはチップ製造に乗り出したのか

 さて、AGI CPUに関する発表内容の紹介はこの程度にしてもう少し深堀りしたいと思う。

 なぜArmは今回チップ製造に乗り出したのか。結論から言えば、Neoverseの売れ方が特異過ぎるためだ。通常ArmのIPなりCSSなりというのは、半導体メーカーに販売される。もちろん、例えば「Cortex-A」や「Cortex-M」を、機器メーカーが自社用のASICに統合したいという目的で購入する場合も少なくない(AFA:Arm Flexible Accessがこの後押しをした)のだが、絶対的な数量という意味では半導体メーカーに販売する方が大きい。携帯電話機向けのSoC(System on Chip)や組み込み向けのSoC、あるいはMCU各種などは全部こうした形に当てはまる。自動車向けについても、自動車メーカーが自社で製造するというよりも半導体メーカーとパートナーを組んで、その自動車向けのSoCをArmベースで製造してもらい、それを利用するという形が圧倒的に多い。

 こうした中でNeoverseだけがちょっと異なる。既にNeoverseは12.5億個のコアを出荷したとされる(図16)が、実はこの大半がエンドユーザーに直接販売されている。

図16
図16 Neoverseはこれまでに12.5億個のコアを出荷したとされる[クリックで拡大] 出所:Arm

 要するに、GoogleだったりAmazon.com傘下のAWS(Amazon Web Services)だったりMetaだったりといったハイパースケーラである。これらの企業は、自社のクラウドサービス向けに自社で設計したNeoverseベースのCPUを利用している。一番分かりやすいのがAWSであり、「Neoverse N1」をベースに「Graviton(Graviton 1)」を2018年に発表している

 この市場に半導体メーカーはないのか? というとそんなことはないのだが、まだ破綻せずに現在も製品をリリースしているのは事実上Ampere Computing1社だけである(富士通の富岳向けA64FXはそもそもHPC向けだし、設計も自社開発のオリジナルコアだからここからは除外される)。では、そのAmpere Computingの製品がハイパースケーラに大量に採用されているかと言えばそんなことはなく、中小のクラウドプロバイダーなどに採用されてはいるものの、出荷量はハイパースケーラに及ばず、それもあって2025年3月にソフトバンク子会社のSilver Bands 6に買収されている。こうした状況では、Neoverseの製品動向というのはハイパースケーラの意向が強く働くことになる。

 ではハイパースケーラの意向は? というと、高性能/低消費電力のCPUコアをArmベースで「安価に」入手したい、ということに尽きる。

 ハイパースケーラはこれまでその豊富な資金力をベースに自社でNeoverse CCSのライセンスを受け、これを利用して自社向けプロセッサを開発してきたわけだが、開発と一言で言ってもその設計や量産にかかるNRE(Non-Recurring Engineering)コストは半端ない。ケースによってばらつきは大きいが、5nm世代だと5億4200万米ドル、という数字もある程だ。3nm世代だと6億米ドルを突破するのは固く、おそらく7億米ドルに達するだろう。これはあくまでNREコストであり、量産コストはまた別である。このNREコストを減らしたい、というニーズがハイパースケーラからArmに寄せられるのも当然のことである(そのための手段の一つがCCSではあるのだが、CCSを使ったからといってNREが半分になったりはしない)。

 一方Armの側は? というと、既にライセンス収入の2割がCCSからのものとなっており、この売り上げをさらに引き上げたいわけだが、もしここでハイパースケーラ向けのCPUコアの量産を全て手掛けた場合、その売り上げは従来の比ではない。ハース氏による市場予測では、近い将来に1000億米ドル規模、2030年末までにはエッジからクラウドまでの全領域で1兆米ドル規模のTAM(Total Addressable Market)が見込まれるとしている。もちろんこれはTAMであってSAM(Serviceable Available Market)がどの程度か? というのはまた別の話であるが。

 基調講演の後の質疑応答において、同社 EVP&CFOのジェイソン・チャイルド(Jason Child)氏は「例えばチップのASP(平均販売価格)が1000米ドルだとすると、IP売りだと5%だから50米ドル、CCSだと10%の100米ドル程度を得られるが、チップだと50%の500米ドルの粗利益が得られる」と説明している。これは売り上げを大きく伸ばしたいArmにとって、逃せないチャンスなわけだ。

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