加速するArmのプロセッサロードマップ、ソフトバンクによる買収が契機に:Arm最新動向報告(1)(2/3 ページ)
2018年後半に入って急激に動きを活発化させているArm。本連載では同社の最新動向について報告する。第1回のテーマはプロセッサロードマップだ。
AWSの「Graviton」が「Cosmos Platform」を採用
さて、実際のプロセッサIPだが、Neoverseの方はどんな感じの構成になっているのか、というのがこちら(図4)。まず、16nm世代の「Cosmos Platform(以下、Cosmos)」だが、これは既に存在する(というか、実際に顧客が製造を行っている)プラットフォームである。実は公表された最初の顧客はAWS(Amazon Web Services)だったりする。
図4 こちらは2018年10月18日の「Arm-Synopsys Collaboration to Enable Edge-to-Cloud Computing」というセッションのスライド。左端の「Announced」のところにある「CoreLink SGIシリーズ」が「Cosmos Platform」に相当する(クリックで拡大)
2018年11月27日、AWSはArmベースのEC2 A1インスタンスを発表した。ここに利用されているのは「AWS Graviton Processor(以下、Graviton)」だが、GravitonはAmazonが2015年に買収したAnnapurna labsが手掛けたことがリリースに記されている。このGraviton(チップの名称は「AL73400」だそうだ)、構成は16コアの「Cortex-A72」であることを、EC2 A1インスタンスを利用したユーザーが即座に明らかにしている。
実はこのCosmosは複数のCPUコアが対応している。一覧は図4にあるが、Cortex-A53/72/75という3種類のコアと、CCN-512ないしCMN-600というCache Coherency Interconnectを組み合わせる形で構成されているのがCosmosである。おそらく近い将来には、さらに多くのCosmosを利用したArmベースのサーバ向け製品が各社からリリースされ始めるものと思われる。
さて、問題はそれ以降だ。まず、CPUコアから言えば、以下の3つが現在開発パイプラインに載っているのは間違いないようだ。
- Deimos:ターゲットは7nmないし7nm+(EUV)プロセス。Cortex-A76の後継となるBigコア
- Hercules:ターゲットは7nm+ないし5nmプロセス。Deimosの後継となるBigコア
- Helios:ターゲットは7nmないし7nm+プロセス。Cortex-A53の後継となるLittleコア
ちなみにHeliosはクライアント向けにはならない(現にロードマップに掲載されていない)。これについて、Arm VP&GM, Client Line of BusinessのNandan Nayampally氏いわく「Heliosはインフラ向けのコアで、非常にユニークな特徴を持ったものだが、クライアント向けではない」という返事が返ってきた。どのあたりがどうユニークなのかは“Stay tuned”ということで教えてもらえなかったが、そんなわけで存在することは間違いない。
さて、問題はNeoverseの各プラットフォームとコアの関係である。普通に考えると、「Ares Platform(以下、Ares)」はCortex-A76かと思うのだが、これはHenry氏にはっきり否定された。ということはDeimosか? ということになるのだが、Deimosそのものは「Zeus Platform」向けっぽい。そして、「Poseidon Platform(以下、Poseidon)」がHerculesという形になるかと思われる。ではAresのコアは何なのか? という話については、図4を見るとそのAresは「Released」という扱いである。ここから見ると、Cortex-A76に似ている(というか、ベースはCortex-A76)ながら、サーバのワークロード向けに変更を施したバージョンがAres向けのコア、ということになるのかもしれない。
こうした積極的な新プロセッサIPの投入は、やはりソフトバンクの買収により、思い切った投資が可能になったためと考えるべきなのは間違いないだろう。もちろん、ここに出ているコア(おそらくPoseidonあたりまで)は、いずれもソフトバンクの買収「前」から設計パイプラインに組み込まれていたものと思われる。ただ以前は、この設計パイプラインはあまりスピードが速くなかった。Cortex-AのBigコアについて、その発表時期を時系列をまとめると分かりやすい(表1)。
コア名称 | 発表時期 |
---|---|
Cortex-A15 | 2010年10月 |
Cortex-A57 | 2012年10月 |
Cortex-A17 | 2014年02月 |
Cortex-A72 | 2015年02月 |
Cortex-A73 | 2016年05月 |
Cortex-A75 | 2017年06月 |
Cortex-A76 | 2018年06月 |
表1 「Cortex-A」のBigコアの発表時期 |
これらの中で、Cortex-A17のみ当初はCortex-A12として設計されつつ途中で方針が変わったというものなので除外すると、2015年あたりまではおおむね2年おきに新コアが発表されていた。これが、2016年からはほぼ毎年新コアが発表されるようになっている(厳密に言えばCortex-A73の発表はソフトバンクによる買収前だから、これは除外して考えるべきだが)。
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