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加速するArmのプロセッサロードマップ、ソフトバンクによる買収が契機にArm最新動向報告(1)(3/3 ページ)

2018年後半に入って急激に動きを活発化させているArm。本連載では同社の最新動向について報告する。第1回のテーマはプロセッサロードマップだ。

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IntelのTick-Tock戦略とは異なる手法で設計を加速

 ただし、CPUの設計は、資金だけ積めば加速できるというものでもない。加速したい場合、例えば複数の設計チームが交互に設計を行うという手段がある。今は崩壊してしまったが、IntelのTick-Tock(チクタク)戦略がまさにこれで、米国のオレゴンとイスラエルという2つのプロセッサ設計チームが1年ずらしの形で設計を行っており、結果として毎年新製品を投入できたというものだ。しかし、Armはこれとは少し異なるようだ。Drew氏をはじめ何人かに確認したのだが、英国のケンブリッジ(要するにArmの本社所在地)以外にも、米国オースティンをはじめ幾つかのデザインセンターがあり、それぞれ共同作業をしているという話ではあったものの、設計チームと呼ばれるものはそもそも1つしか無いようだ。ただ察するには、設計チームの数を増やすのではなく、設計チームそのもののスループットを引き上げる(というか、レイテンシを下げるというか)ことで対応しているようだ。

 一般論としてプロセッサを作る場合、基本となるアーキテクチャの要素を決める(これは少数精鋭)部隊、その要素に基づいて基本的な構造とパラメータ(キャッシュのサイズとかTLBの構造とかリタイアメントユニットのスロット数とか)を決定する部隊(こちらはシミュレーションをブン回すので、それなりの数の人員が必要)、決定されたパラメータに基づいて論理設計をする部隊(これは数百〜数千人規模)、完成した論理設計に基づいて物理設計をする部隊(論理設計と同等規模)がそれぞれいる。

 さて、アーキテクチャの要素を決める部隊に関しては、頭数を増やせば済むというものでもなく、ここはそうそう高速化はできない。ここについては、どうも複数のグループがいるようだ。1ページ目の図3で言うなら、Poseidonとかその先(3nm世代?)向けのアーキテクチャの要素決めを、複数のグループが並行して実行している形だ。

 おそらく、Poseidon向けのHerculesはもう要素決め作業はほぼ完了して、次の基本的な構造とパラメータの策定に取り掛かっているころだろう。この辺りからは、ある程度力業が可能になってくる。例えば、より高速にシミュレーションを行える機器を大量に導入できれば、あるパラメータを決定するために必要なデータを集めるための時間が短縮できるから、結果として作業期間そのものを減らすことができる。その先の論理設計や物理設計も同様で、こちらは基本的に分業になるから、端的に言えばエンジニアの頭数を増やせばその分スループットが上がる。もちろんこのレベルのエンジニアを集めるのは大変なことだが、そこでソフトバンクによる投資増加がモノをいうわけで、結果として設計チームの陣容を大幅に強化することができたらしい。

 昨今では、半導体の製造コスト以上に増加する設計コストに耐え切れず撤退するベンダーもある。その中で、むしろ設計チームに大幅な投資をすることで製品パイプラインを短縮することに成功した結果が、2018年になってArmが製品ロードマップを頻繁に公開するようになった、最大の理由なのかもしれない。

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