品質は誰が、どのように確認しているのか:製品リコールを生む品質不良の原因と対策(2)(3/3 ページ)
設計品質と量産品質の構造を整理し、品質不良が生まれるメカニズムを体系的に考察する連載「製品リコールを生む品質不良の原因と対策」。第2回では、設計品質と量産品質が誰によって、どのような方法で確認されているのかを整理する。さらに、設計プロセスと量産プロセスの両方で担保される「製造性」に着目し、品質不良が安全問題やリコールへとつながる構造について解説する。
リコールされたトースター
8年ほど前に、筆者はあるトースターを購入した。機能とデザインが良く、非常に気に入っていた。
使い始めて半年ほど経過したころ、温度調節をする円筒形のツマミ周辺の印刷表示が、ほとんど消えてしまった。このツマミを指で回すと、指先が印刷表示にわずかに触れる。筆者は頻繁にこのトースターを使っていたため、印刷が擦れて消えてしまったのだろう。
このトースターは、内部を洗浄しやすいよう工夫されており、内部部品が着脱しやすくなっていた。あるとき、洗浄のために内部部品の金属管を取り外したところ、洗浄後に取り付け向きが分からなくなり、誤った向きで取り付けそうになった。そうしたところ、嵌合相手の金属部品が変形してしまった。その変形した部品は外観から見えたため、せっかくの良いデザインの見栄えが悪くなってしまった。
このトースターを使い始めて1年が経過した頃、この製品を無償交換する旨のハガキが送られてきた。ハガキには「品質問題が見つかり、安全上の理由から新品と交換する」と書いてあった。数日後に新品が送られてきたので旧品を送り返し、トースターは新品に入れ替わった。その後、既に7年近く使用しているが、ツマミ周辺の印刷は消えていない。この1年の間に改善されたのだろう。
筆者は、トースターを台の上に載せて使用している。あるとき、陶器に入れたドリアを加熱調理していて、庫内の様子を見ようと思い扉を開けた。すると、陶器とドリアの重さでトースターが台から落下してしまった。ドリアはひっくり返り、トースターの天面の板金部品は大きく変形してしまった。
- ツマミ周辺の印刷消え
- 部品洗浄時の金属部品の変形
- 安全上の問題による製品交換
- 台から落下したことによる天面の板金部品の変形
さて、これらの問題は「安全性」「信頼性」「製造性」のどの品質に問題があったのか。また、これらは「設計プロセス」と「量産プロセス」のどちらに問題があったのか。さらに、「製品の作製」と「品質の確認」のどちらに問題があったのか。本連載を読み進めながら、一緒に考えていきたい。 (次回へ続く)
筆者プロフィール
オリジナル製品化/中国モノづくり支援
ロジカル・エンジニアリング 代表
小田淳(おだ あつし)
上智大学 機械工学科卒業。ソニーに29年間在籍し、モニターやプロジェクターの製品化設計を行う。最後は中国に駐在し、現地で部品と製品の製造を行う。「材料費が高くて売っても損する」「ユーザーに届いた製品が壊れていた」などのように、試作品はできたが販売できる製品ができないベンチャー企業が多くある。また、製品化はできたが、社内に設計・品質システムがなく、効率よく製品化できない企業もある。一方で、モノづくりの一流企業であっても、中国などの海外ではトラブルや不良品を多く発生させている現状がある。その原因は、中国人の国民性による仕事の仕方を理解せず、「あうんの呼吸」に頼った日本独特の仕事の仕方をそのまま中国に持ち込んでしまっているからである。日本の貿易輸出の85%を担う日本の製造業が世界のトップランナーであり続けるためには、これらのような現状を改善し世界で一目置かれる優れたエンジニアが必要であると考え、研修やコンサルティング、講演、執筆活動を行う。
◆ロジカル・エンジニアリング Webサイト ⇒ https://roji.global/
◆著書
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