京セラがウェアラブル空中ディスプレイを試作、新開発の「メタレンズ」で実現:ウェアラブルニュース
京セラは、光の波長よりも小さな構造体を2次元的に配列するメタサーフェスを用いた光制御技術の応用により、波長ごとに集光位置を制御できる「メタレンズ」を開発した。このメタレンズを用いて、光学系の小型化と奥行き感のある映像表現を両立した「ウェアラブル空中ディスプレイ」の試作機も開発した。
京セラは2025年12月22日、光の波長よりも小さな構造体を2次元的に配列するメタサーフェスを用いた光制御技術の応用により、波長ごとに集光位置を制御できる「メタレンズ」の開発に成功したと発表した。このメタレンズを用いて、光学系の小型化と奥行き感のある映像表現を両立した「ウェアラブル空中ディスプレイ」の試作機も開発した。メタレンズとウェアラブル空中ディスプレイは、米国ラスベガスで開催される「CES 2026」(2026年1月6〜9日)で初公開する予定である。
新開発のメタレンズの特徴は2つある。1つは、光学レンズを含めたデバイスの小型/軽量化を実現できる点だ。メタレンズは、ガラス表面に光の波長より小さな柱状構造である“メタアトム”を並べることで光を制御するメタサーフェス技術を用いたレンズである。この構造により、従来は1cm以上の厚みが必要だった光学レンズを1mm以下の薄さにすることが可能だ。
さらに、メタアトムの設計を工夫することで、単一のメタレンズに波長や位相制御など複数の光学特性を統合できる。このため、従来必要だった複数の光学部品の大幅な削減につなげられる。レンズの薄型化と光学系全体の部品点数の削減によって、大幅な小型/軽量化に貢献できるというわけだ。
もう1つの特徴は、奥行き感のある映像表現が可能な点だ。京セラ独自のメタアトム設計技術により、光の色に応じて結像位置が変化する特性を持ったメタレンズを開発した。このメタレンズを用いることで、例えば緑色の像は奥に、赤色の像は手前にといったように、色ごとに異なる高さに映像を浮かび上がらせることが可能である。
異なる位置に映像を作り出すことで、奥行き差を持つ立体的な空中映像が表示でき、ウェアラブル端末サイズの光学系でも自然な奥行き感を表現できるとしている。
試作機を作り上げたウェアラブル空中ディスプレイでは、今回開発したメタレンズと、京セラが高精細空中ディスプレイの研究で培った空中での映像結像技術を組み合わせることで、身に着けられるサイズまで小型/軽量化し、さらに奥行き感のある映像表示を可能とした。
なお、今後の技術開発の方向性として、現在色ごとに結像位置が変化する空中映像について、さらに波長制御の自由度を高めることで、より多色で高精細な空中映像表示へと進化させることが可能だとしている。また、微細構造の設計を高度化することで、実写のような滑らかな立体映像を空中に投影する技術に発展させていきたい考えだ。
メタレンズの薄型/軽量という特徴は、VR(仮想現実)/AR(拡張現実)グラスの小型化/装着性の向上、カメラやプロジェクターなど光学機器の薄型化/省スペース化にも応用できる。京セラは今後、独自のメタレンズ設計をさらに進化させ、コンシューマー向けデバイスから産業用途まで、幅広い分野における光学技術の高度化に貢献していく方針である。
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