NVIDIAが生み出す半導体産業の“正の循環”、AIフィジックスが新たな原動力に:人工知能ニュース(2/2 ページ)
AI技術の進化をけん引するNVIDIAが、半導体技術の進化にも大きな影響を与えようとしている。同社のティム・コスタ氏によれば、AIエージェントとフィジカルAIに加えて、これらに次ぐ第3のAIともいえる「AIフィジックス」が重要な役割を果たすという。
SKハイニックスが「Apollo」の活用でTCADの速度を360倍に
このApolloを活用することで、半導体製造プロセスのシミュレーション速度を段違いに高める取り組みを進めているのがメモリメーカーのSKハイニックスだ。NVIDIAのGPUに欠かせないHBM(広帯域メモリ)を供給する同社は、エッチングプロセスにおける半導体プロセス/デバイスシミュレーターであるTCADのシミュレーション速度を従来比で360倍にまで高めることに成功したという。
半導体産業ではこの他にも、アプライドマテリアルズ(AMAT)やラムリサーチ、ベルギーの研究機関のimecなどがApolloを用いたAIフィジックスの応用に取り組んでいる。「Apolloはオープンモデルであり誰でも活用できる。NVIDIAの使命は、このようなオープンモデルを起点にエコシステムを構築していくことであり、日本の企業にもどんどん利用してもらいたいと考えている。現在、Apolloの活用に向けて初期の議論を行っている日本企業もある」(コスタ氏)という。
TSMCが運用を開始した「cuLitho」、Rapidusが利用する可能性も
NVIDIAのAI技術が、半導体製造プロセスを大きく進化させた事例の一つになっているのが計算(Computation)リソグラフィ向けのAIライブラリ「cuLitho」だろう。
2023年3月開催の「GTC 2023」の基調講演では、2nm以降の半導体製造プロセス向けにASMLとTSMC、シノプシス(Synopsys)とこのcuLithoを共同開発していることが明かされた。そして、2024年11月にはTSMCがcuLithoの運用を開始したことも発表されている。
コスタ氏は「GPUを用いたアクセラレーテッドコンピューティングの起点となるのがAIライブラリの『CUDA-X』であり、cuLithoはその一つだ。cuLithoはTSMC向けに開発したものではなく、半導体産業をはじめより多くのユーザーに利用してもらうことを想定しており、実際にこれから利用者は増えていくだろう」と述べる。
なお、NVIDIAは国内で2nmプロセスに対応する半導体ファウンドリーの立ち上げを目指すRapidusとも協業の初期段階にある。Rapidusが必要とすれば、cuLithoをはじめとするCUDA-XやApolloなどを活用することが可能だ。
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