フィジカルAI実現へ、NVIDIAと富士通がチップからサービスまでAIインフラで協業:製造マネジメントニュース
富士通とNVIDIAは、AIエージェントを統合したフルスタックAIインフラストラクチャの構築を目指し、戦略的協業を拡大する。フィジカルAI領域や量子コンピューティング領域を重点領域とし、共同でAIコンピューティング基盤の開発や、ユースケースの創出などに取り組む。
富士通とNVIDIAは2025年10月3日、AIエージェントを統合したフルスタックAIインフラストラクチャの構築を目指し、戦略的協業を拡大することを発表した。フィジカルAI領域や量子コンピューティング領域を重点領域とし、共同でAIコンピューティング基盤の開発や、ユースケースの創出などに取り組む。
チップからサービスまで、フルスタックAIインフラを構築へ
富士通とNVIDIAは2025年8月にスーパーコンピュータ「富岳」の次世代となる新たなフラグシップシステム「富岳NEXT」(開発コードネーム)で協業することを発表しているが、今回の協業は、両社の技術を持ち寄り、チップからサービスまで含んだ「フルスタックAIインフラストラクチャ」の構築を目指したものだ。
AIエージェントプラットフォームと、AIコンピューティング基盤を統合し、継続的に学習、進化するAIエージェントにより、従来の汎用コンピューティングシステムの限界を克服し、業界横断的に自律進化するAI環境を実現する。具体的には、「AIプラットフォーム」「次世代コンピューティング基盤」「カスタマーエンゲージメント」という3つの領域で協業を行う。
富士通 代表取締役社長 CEOの時田隆仁氏は「企業や社会のあらゆる場所でAIが実装されるためには、それぞれで必要な処理能力や機能を実現するAIインフラが必要になる。富士通は、このAIインフラをNVIDIAと一緒に構築する。AIがもたらす可能性を広げていく」と考えを述べる。
「AIプラットフォーム」は、富士通のAIサービス「Kozuchi」を基盤とし、NVIDIAの持つ「Dynamo」「NeMo」「CUDA」などを組み合わせることで高速で安全なAIエージェントプラットフォームの構築を目指す。
「次世代コンピューティング基盤」は、富士通の持つArmベースのCPU技術と、NVIDIAの持つGPU技術を組み合わせ、CPUとGPUを密結合したAI-HPC(ハイパフォーマンスコンピューティング)基盤を共同開発する。富士通のCPU「MONAKA」とNVIDIAのGPUの連携について共同開発するとともに、NVIDIAの「NVLink Fusion」の活用なども進めていく。
「カスタマーエンゲージメント」は、最終顧客に対し両社での共同提案やユースケース創出などを進めていくことを示している。時田氏は「技術を開発するだけでなく、共創による社会実装まで進めていくことが、今回の枠組みの特徴だ。共同でパートナープログラムの提供も行う」と語る。
協業拡大について、NVIDIA CEOのジェンスン・フアン(Jensen Huang)氏は「現在は、新たな産業時代を迎えようとしており、次の産業革命はAIが起こす。全てのアプリケーションがAIで変わり、AIで全てが支えられるようになる。まさにインフラになる。その中で日本はAIで世界をリードする存在になると考えている。富士通との協業によって、日本において、シリコン、システム、インフラまで一気通貫で構築し、AIが駆動する社会を作っていきたい」と考えを述べている。
フィジカルAIでは安川電機と共創
フルスタックAIインフラにおけるターゲット領域とする1つが「フィジカルAI」だ。富士通のコンピューティング、AI、ネットワーク技術に、NVIDIAのAI関連技術を活用し、自律型ロボットによるさまざまな現場環境の改善に取り組んでいく。既に、安川電機との共創が進んでおり、富士通とNVIDIAによるAIインフラを活用し、安川電機のAIロボットで何を生み出していけるのかについて、検討を進めているという。
富士通 執行役員副社長 CTOのVivek Mahajan(ヴィヴェック・マハジャン)氏は「既に安川電機以外のロボットメーカーとも話をしている。ロボットメーカー以外でも製造系の他、医療系などのさまざまな分野の企業と、フィジカルAI実現に向けた共創の話を進めている」と語っている。
その他、富士通が力を入れる量子コンピューティング分野についても、NVIDIAとの協業で、量子マシンラーニングの実現などについて取り組んでいく。
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