TRONが組み込み特化型AIコーディングエージェントを開発、会員に無償提供へ:組み込み開発ニュース
TRONプロジェクトは、組み込みシステム特化型のAIコーディングエージェント「TRON GenAI CODEアシスタント」を開発した。近日中にTRONフォーラム会員向けにβ版を公開し、正式リリース後に同会員は無償で利用できる予定である。
TRONプロジェクトは、組み込みシステム特化型のAIコーディングエージェント「TRON GenAI CODEアシスタント」を開発した。同プロジェクトリーダーの坂村健氏が学部長を務めた東洋大学 情報連携学部(INIAD)による「AI-MOP(AI管理運用プラットフォーム)」を中核に据えつつ、リアルタイムOS「μT-Kernel 3.0」に基づくナレッジベースを組み合わせることで実現した。近日中にTRONフォーラム会員向けにβ版を公開し、正式リリース後に同会員は無償で利用できる予定である。
ITシステムやWebアプリケーションのプログラミングでは、既にAIコーディングエージェントの活用が進んでいる。しかし、組み込みシステムの場合、作成したプログラムの実装対象であるハードウェアのプロセッサの処理能力やメモリ容量など制約が多く、ハードウェア特有の機能とのひも付けも行う必要があり、AIコーディングエージェントで最適なプログラムを自動生成することが難しいことが課題になっていた。
TRON GenAI CODEアシスタントでは、OpenAIのAIコーディングエージェントである「Codex」を用いつつ、CodexからはAI-MOPをAIモデルとして指定する。AI-MOPは、OpenAIやAnthropic、Googleの生成AIモデルのLLM(大規模言語モデル)をサポートしており、任意に切り替えて利用することができる。また、AI-MOPは、ユーザーの組み込みプログラミングの問い合わせ内容に応じてμT-Kernel 3.0のナレッジベースを呼び出してコード生成に利用する。なお、このナレッジベースには、μT-Kernel 3.0の仕様書、サンプルプログラム、標準ボードである「IoT-Engine」の回路図に加え、TRONプロジェクトの活動に基づく組み込みプログラミングのノウハウなどが格納されているという。
TRON GenAI CODEアシスタントは、通常のAIコーディングエージェントでは難しい、リアルタイムOSの効果的活用や、ハードウェアレイヤーに関わるコード生成や最適化、リソースに厳しい制約のあるメモリ関連の対応などで効果を発揮する。
坂村氏は「AI-MOPを使うことで最新の生成AIモデルの開発成果を活用できる。また、ナレッジベースのうち回路図などを適宜入れ替えれば、自身が開発するハードウェアに最適なAIコーディングを行えるようになる。ぜひTRONフォーラムに参加して活用してもらえれば」と強調する。将来的には、MISRA-CやCERT Cなどのコーディング規約のサポート、デバッガとの連携などの機能追加も視野に入れている。
なお、TRONプロジェクトでは2024年から「TRONプログラミングコンテスト」を開催しているが、次回の2026年開催回からは最終作品の開発ツールとしてTRON GenAI CODEアシスタントの提供を検討している。「国内外から野心的な企画内容の応募がある一方で、最終作品のプログラム開発に苦心している例もみられている。TRON GenAI CODEアシスタントがあれば最終作品の完成度をより向上でき、コンテストのレベルもさらに高められるのではないかと期待している」(坂村氏)という。
TRON GenAI CODEアシスタントの詳細については、「2025 TRON Symposium -TRONSHOW-」(2025年12月10〜12日、カンファレンスホール「Dragon Gate」)の2日目の講演「組込みシステム特化型AIアシスタント」で発表される。
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