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本格オープンソース化する「μT-Kernel 3.0」はIoTの可能性を切り開けるか2022 TRON Symposium(1/2 ページ)

TRONプロジェクトが「IoT-Engine」の構想発表から約6年、同プロジェクトが提唱する「アグリゲートコンピューティング」を実現するオープンな標準プラットフォーム環境として展開されてきた。本稿では、このIoT-Engine関連の展示を中心に「2021 TRON Symposium」の展示を紹介する。

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 コロナ禍を経て坂村健氏がリーダーを務めるTRONプロジェクトの活動内容も少しずつ変わりつつある。「IoT-Engine」は、同プロジェクトが提唱する「アグリゲートコンピューティング」を実現するためのIoT(モノのインターネット)向けのオープンな標準プラットフォーム環境だが、同様の構想は民生機器向けであれば、アマゾン(Amazon.com)やグーグル(Google)、アップル(Apple)やサムスン電子(Samsung)などが参画するスマートホーム機器のセキュリティと認証の規格「Matter」などの形で具体化しつつある。

 これらのIoT-EngineやMatterにとって、エッジやエンドポイントのデバイスを制御するのに重要な役割を果たすのがリアルタイムOS(RTOS)である。TRONプロジェクトのRTOSといえば「μITRON」が広く知られているが、現在はIoTへの対応も可能な機能を備えた「μT-Kernel」へと移行している。本稿では、このμT-Kernelの最新バージョンである「μT-Kernel 3.0」関連を中心に、「2022 TRON Symposium」(2021年12月7〜9日、東京ミッドタウンホール)の展示を紹介する。

μT-Kernel 3.0で安価にイーサネット機能を試す

 μT-Kernelでは、バージョン2.0に当たる「μT-Kernel 2.0」がIEEE(米国電気電子学会)のIoT(モノのインターネット)エッジノード向けRTOSの国際標準であるIEEE 2050-2018になったことが知られている。このμT-Kernel 2.0と完全互換となる最新のTRON仕様のRTOSがμT-Kernel 3.0だ。

 μT-Kernel 3.0は、2022年10月に最新版となる「3.00.006」がGitHubで公開されておりオープンソースソフトウェアとして利用可能な状態になっている。ソフトウェア開発に必要なBSP(ボードサポートパッケージ)も、STマイクロエレクトロニクス(以下、STマイクロ)やルネサス エレクトロニクスの評価ボードが対応しており、2022年11月30日には「Raspberry Pi Pico」も加わった。これまでのμT-Kernelの展開と比べると、格段に利用を検討しやすくなったといえるだろう。

 ユーシーテクノロジは、μT-Kernel 3.0に対応するSTマイクロや東芝、インフィニオン テクノロジーズ(以下、インフィニオン)の評価ボードにおいて、イーサネット機能の利用が可能になるArduinoの拡張ボードを活用したソリューションを披露した。

ユーシーテクノロジのμT-Kernel 3.0関連の展示ユーシーテクノロジのμT-Kernel 3.0関連の展示 ユーシーテクノロジのμT-Kernel 3.0関連の展示。STマイクロや東芝、インフィニオンの評価ボードでイーサネット機能の利用が可能になるArduinoの拡張ボードを活用したソリューション[クリックで拡大]

 これらの評価ボード単体ではイーサネット機能を搭載していない、もしくはオンボードのイーサネット機能をμT-Kernel 3.0で利用するためのソフトウェアがオープンソースで利用できないためIoT関連ソフトウェア開発への適用が難しい。そこで、SPIを介してArduinoの拡張ボードを接続するため通信速度は限られているものの、イーサネット機能の評価を安価に行えるようにするため開発したという。なお、このソリューションの構成や関連ソフトウェアは2022年内に無償で公開する予定である。

 なお、ユーシーテクノロジは、μT-Kernel 2.0までは開発キットなどを製品化し、それらを販売する形で事業を展開してきた。μT-Kernel 3.0については開発キットを投入せず、今回のソリューションのような形でμT-Kernel 3.0のオープンソース展開を支援するとともに、機器量産に向けた受託開発を行うビジネスモデルに転換していくという。

 また、ユーシーテクノロジとインフィニオンの協業により、μT-Kernel 3.0を組み込んだインフィニオンの評価ボードと静電容量タッチセンサーの拡張ボードを用いて、展示会場内の他ブースにある窓のブラインドを遠隔操作するデモも披露した。

展示会場内の他ブースにある窓のブラインドを遠隔操作するデモも披露
展示会場内の他ブースにある窓のブラインドを遠隔操作するデモも披露[クリックで拡大]

 パーソナルメディアは、BBCが開発した超小型の教育コンピュータ「micro:bit」によってRTOSの動作を学ぶことができる実習用教材セット「リアルタイムOSマイクロ学習キット」を披露した。同セットで用いられているRTOSがμT-Kernel 3.0になっている。

 micro:bitは25個のLEDをはじめ、ボタンスイッチ、照度センサー、温度センサーなどの周辺デバイスが搭載されているため実習用ボードとして最適だという。パーソナルメディアが展開してきたTRON関連のOSを用いた教材セットは1万円を超えることが課題だったが、今回は1万円を切る価格で提供可能だという。

「micro:bit」を採用したパーソナルメディアの「リアルタイムOSマイクロ学習キット」
「micro:bit」を採用したパーソナルメディアの「リアルタイムOSマイクロ学習キット」[クリックで拡大]

 STマイクロは、μT-Kernel 3.0に対応する評価ボード「NUCLEO-H723ZG」「NUCLEO-LL476RG」を展示した他、近年注力している2.4GHz帯やサブギガ帯の無線通信機能を集積したワイヤレスマイコンをアピールした。マイコンレベルではμT-Kernel 3.0への対応で先行している実績もあり、これらのワイヤレスマイコンの評価ボードが対応すれば、μT-Kernel 3.0を用いたIoT機器開発の可能性は広がりそうだ。

STマイクロの評価ボード「NUCLEO-H723ZG」「NUCLEO-LL476RG」
STマイクロの評価ボード「NUCLEO-H723ZG」「NUCLEO-LL476RG」。μT-Kernel 3.0に対応している[クリックで拡大]
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