本格オープンソース化する「μT-Kernel 3.0」はIoTの可能性を切り開けるか:2022 TRON Symposium(2/2 ページ)
TRONプロジェクトが「IoT-Engine」の構想発表から約6年、同プロジェクトが提唱する「アグリゲートコンピューティング」を実現するオープンな標準プラットフォーム環境として展開されてきた。本稿では、このIoT-Engine関連の展示を中心に「2021 TRON Symposium」の展示を紹介する。
自治体管理道路向けのスマート道路モニタリングシステム
ここからはμT-Kernel 3.0以外で気になった展示を紹介しよう
シマフジ電機は、カヤバ(KYB)が開発中のスマート道路モニタリングシステム向けに開発したデータロガーを披露した。
このスマート道路モニタリングシステムは、自治体が管理を担っている県道や市道などを中心とする一般道向けのものだ。これまで、路面の損傷状況などを自治体職員が撮影/記録するなどの手法を取っており、手間が掛かる上に広くカバーすることが難しいなどの課題があった。同システムは、既存のパトロール車両の足回りに加速度センサーなどを組み込み、データロガーを搭載することで全自動の計測車両化できる点が最大の特徴になる。収集したデータロガーのデータは、県庁や市役所などの自治体拠点において無線LAN経由でKYBのデータセンターに送ることで、AI(人工知能)により道路の損傷レベルを自動診断するとともに見える化される。
2021年度から島根県益田市で実証実験を行っており、今後は実証実験を拡大することで、2024年度以降を想定する本格事業化につなげたい考えだ。
またシマフジ電機は、宇宙機開発用の評価ボードの最新モデルとなる「Space Cube MK4」を展示した。衛星やロケットなどの宇宙機は、耐久性や耐放射能性能、動作温度範囲なども含めて専用のICが搭載されてきたが、民間企業による宇宙機市場への参入により産業機器で用いられるレベルのICを採用する流れが生まれつつある。
Space Cube MK4はそういった観点から、AMDの「Kitex UltraScale」やルネサスの「RZ/V2MA」「RZ/A2M」などの先端ICが搭載されている。Space Cube MK4そのものは、地上試験に用いられるものであり、実際に宇宙空間に投入する宇宙機向けではないが、これまでの宇宙機開発用評価ボードの実績から、一定のニーズがあると見込んでいる。
ユーシーテクノロジとの協業展示を行ったインフィニオンは、自社製品によって構成可能なワイヤレスCO2換気システムを展示した。同社はサイプレス・セミコンダクターなどを買収することで製品ラインアップを拡充しており、IoTシステムを構築する場合に自社でカバーできる範囲が大きく拡大している。
展示したシステムは、CO2センサーとマイコンの「PSoC」による部屋内のCO2濃度のセンシング結果を基に、無線LANモジュールを介してマイコンの「iMOTION」とIPM(インテリジェントパワーモジュール)で制御する換気のためのファンモーターを動作させるというもの。CO2濃度が高い時だけ強換気モードで動かし、CO2濃度が低くなれば弱換気モードで静音運転させられる。スマートオフィス向けを想定しており、買収による事業拡大で同社の商機が広がっていることをイメージさせるデモ内容となっていた。
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