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オープン化で裾野広がるμT-Kernel 3.0、プログラミングコンテストを起爆剤に2023 TRON Symposium(1/2 ページ)

「2023 TRON Symposium」では、TRONプロジェクトのRTOS「μT-Kernel 3.0」をテーマに大手マイコンメーカー4社が協賛する「TRONプログラミングコンテスト」が発表された。本稿では、このμT-Kernel 3.0関連を中心に2023 TRON Symposiumの展示を紹介する。

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 1984年に誕生した「TRONプロジェクト」は、2024年に40周年の節目を迎える。10年前の2014年に30周年を迎えてからの10年間は、組み込み機器で広く利用されてきたμITRONの実績をベースにIoT(モノのインターネット)への取り組みを強化してきた10年間でもあった。TRONプロジェクト リーダーの坂村健氏も、2017年3月末に東京大学を退官して同年4月に東洋大学 情報連携学部(INIAD)の学部長に就任するなどポジションに変化はあったものの、IoTの普及に向けた意気込みは変わらず強い。TRONプロジェクトの活動は、スマートビルやスマートホーム、スマートロジスティクス、公共交通のオープンデータプラットフォームなどIoTを活用した社会のスマート化に向けて拡大しており、NTTの光ベースの次世代ネットワーク基盤構想「IOWN」や、話題の生成AI(人工知能)との連携も図ろうとしている。

 これらTRONプロジェクトのさまざまな活動の基礎を成すのがシステムの制御を担うOSである。同プロジェクトからはBTRONやμITRON、T-KernelなどのOSが生まれているが、直近10年間で成果が広がっているのがIoT向けリアルタイムOS(RTOS)「μT-Kernel」だろう。最新版の「μT-Kernel 3.0」が2022年10月にオープンソースソフトウェアとして公開されたこともあり、普及に向けた足場固めは進みつつある。「2023 TRON Symposium」(2021年12月7〜9日、東京ミッドタウンホール)では、μT-Kernel 3.0をテーマに大手マイコンメーカー4社が協賛する「TRONプログラミングコンテスト」も発表された。本稿では、このμT-Kernel 3.0関連を中心に2023 TRON Symposiumの展示を紹介する。

TRONプログラミングコンテストでも注目“マイコンでAI”

 TRONプログラミングコンテストに協賛するのは、インフィニオン テクノロジーズ ジャパン、STマイクロエレクトロニクス、NXPジャパン、ルネサス エレクトロニクスの4社だ。2023 TRON Symposiumの展示ホールでは、インフィニオンとSTマイクロが同コンテストの対象となる評価ボードを展示した。インフィニオンは「XMC7200」を搭載する「KIT_XMC72_EVK」、STマイクロは「STM32M723」を搭載する「Nucleo-H723ZG」で、XMC7200、STM32M723ともCortex-M7ベースのマイコンである。

インフィニオンの「KIT_XMC72_EVK」
インフィニオンの「KIT_XMC72_EVK」[クリックで拡大]

 STマイクロは、マイコンでエッジAIを動作させるためのライブラリやソフトウェアなども展開しており、STM32M723と同等クラスのマイコンを用いて約10fpsの速度で画像認識が行えることも併せて示した。TRONプログラミングコンテストは、アプリケーション、ミドルウェア、ツール/開発環境の3部門で実施されるが、“マイコンでAI”は3部門にわたって注目のテーマになりそうだ。

STマイクロは評価ボードの「Nucleo-H723ZG」とともに“マイコンでAI”のデモも披露
STマイクロは評価ボードの「Nucleo-H723ZG」とともに“マイコンでAI”のデモも披露。ハンバーガーの物体認識を約10fpsの速度で行っている[クリックで拡大]

 なお、TRONプログラミングコンテストで提供される評価ボードには協賛4社のものの他、英国放送局のBBCが開発した超小型の教育コンピュータ「micro:bit」も加わる。国内向けでは、パーソナルメディアがμT-Kernel 3.0を用いた組み込みシステム/RTOS学習教材として展開している。前回の「2022 TRON Symposium」は2023年3月の発売前だったため評価ボードのみの展示だったが、今回はキットに付属するOSの動作をビジュアル表示する「タスクトレーサ」や、micro:bitを用いた子ども向けの開発アプリケーション事例などを披露した。

「micro:bit」の展示
「micro:bit」の展示。ディスプレイにタスクトレーサの画面が表示されている[クリックで拡大]

 ユーシーテクノロジは、μT-Kernel 3.0のオープンソースソフトウェア化に合わせて、μT-Kernel 2.0までの開発キット販売から機器量産に向けた受託開発にビジネスモデルを転換していく方針を打ち出している。2022 TRON Symposiumの段階では、イーサネット機能の利用が可能になるArduinoの拡張ボードを活用したソリューションをGitHubで公開し、μT-Kernel 3.0のオープンソース展開を支援するとともに、同社の受託開発への導線とすることを表明していた。

 今回の展示では、インフィニオン、STマイクロ、東芝デバイス&ストレージの評価ボードに対応するBSP(ボードサポートパッケージ)6件をGitHib上で公開していることを明示した。また、近日中にも5件を追加できる準備が整っているという。

⇒ユーシーテクノロジがGitHubで公開しているμT-Kernel 3.0のBSP

ユーシーテクノロジがGitHub上で公開しているμT-Kernel 3.0のBSPのラインアップ
ユーシーテクノロジがGitHub上で公開しているμT-Kernel 3.0のBSPのラインアップ[クリックで拡大] 出所:ユーシーテクノロジ

 さらに、東芝デバイス&ストレージの評価ボードを用いたμT-Kernel 3.0における省電力コードの事例も披露した。ティックタイマー割り込み処理を行うことで、IoT機器に求められる省電力が実現できるという。

μT-Kernel 3.0の省電力コードのデモ(左)とティックタイマー割り込み処理の部分(右)[クリックで拡大]

 アビリカは、明光電子の展示ブース内で、10年ぶりにリニューアルするソフトウェア開発学習用の多機能ロボット「ヨケタロー」の新モデル「NEWヨケタロー(仮)」を披露した。マイコンをルネサス エレクトロニクスの「RX230」にアップグレードし、3軸加速度センサーモジュールやBluetoothモジュールを新たに搭載している。現行のヨケタローにも搭載している超音波センサーや、フォトリフレクターによるライントレース(オプション)なども可能である。今回は、TRON Symposiumへの出展に当たり、展示ロボットの制御をμT-Kernel 3.0で行っていた。

アビリカの「NEWヨケタロー(仮)」の動作デモ
アビリカの「NEWヨケタロー(仮)」の動作デモ[クリックで拡大]

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