マツダと日本製鉄が「調達の常識」を変える、新型CX-5でサプライチェーン効率化:サプライチェーン改革(2/2 ページ)
マツダと日本製鉄が車体開発で「共創活動」を発表した。従来の鋼板ごとの価格競争をやめ、「車両1台分」の集約発注をデザイン段階から行う新方式に転換。新型CX-5で鋼板重量10%削減とサプライチェーン効率化を両立させた。
補強部材の廃止と新レインフォースメント採用で重量10%削減
両社の共創活動は、新型CX-5において鋼板重量を前モデル比で10%削減するなど、既に具体的な成果を生み出している。
軽量化技術の1つ目は、車体構造最適化による補強部材の廃止だ。従来の車体構造では、各部位を1枚の鋼板部品だけでは補いきれないため、部品同士のつなぎ目にブラケットやガセットといった部材で補強していた。今回はデザインの段階で、日本製鉄側が強度の要件に合わせた最適部材の配分を提案。これにより、これまで使用してきた多くの補強部材が不要になった。
2つ目は、フロントのバンパーレインフォースメントに日本製鉄の「高曲げ型2.0GPa 級ホットスタンプ用鋼板」を採用したことだ。この部位は軽量化のためにアルミ材が使われる傾向が強かったが、アルミは材料コストが鉄の3倍以上になるという課題があった。
そこで、衝撃材の配置に着目した。新構造では、本体には硬い鋼板を採用しつつ、「壊れやすさ」を高めた衝撃材をバンパー部の鋼板と車体側の間をつなぐように配置することで、衝撃時の機能向上と軽量化を両立させたという。
工場近辺に生産拠点を集約しサプライチェーンコストを削減
共創型開発により、サプライチェーンのシンプル化も実現した。
開発の早い段階から日本製鉄が参画することで、鋼板選定の時点から生産/物流の最適化までを考慮できるようになった。具体的には、「どの製鉄所で鋼板を生産するのが最適か」「どうすればマツダの車両組立工場に近い場所で生産できるか」といった点を、開発初期から検討できるようになる。
その結果、新型CX-5の開発過程では、実際にマツダの車両組立工場に近い日本製鉄の鋼板製造工場を生産拠点として選定した。マツダ側では、調達時の輸送コストやCO2排出量の削減、サプライチェーン上の在庫削減につながっている。
日本製鉄のサプライチェーンにも効果があったという。日本製鉄は早い段階で生産計画を立案できるようになったため、生産効率が向上し、間接的な生産コストの削減にもつながった。さらに、鷲見氏は「日本製鉄は多種多様な鋼板を製造しているが、中には採算の取りにくい少量生産品も含まれていた。今回の連携により、日本製鉄が高付加価値な鋼板に生産を集中できるようになり、これが日本製鉄にとっても大きなメリットになったと考えている」と、双方の利益になっていることを強調した。
新型CX-5はモビリティショーで一般向け初公開
今回の取り組みの背景として、自動車業界における電動化や素材価格の高騰、地政学リスクによるサプライチェーンの分断などにより、業界全体が構造変化に直面していることを挙げている。マツダは「2030経営方針」の第2フェーズにおいて1000億円規模の原価低減と、生産性向上による経費1000億円の削減を掲げており、今回の取り組みを戦略実現に向けた重要な変革としたい考えだ。マツダと日本製鉄の2社は、今後も共創活動を適用する車種を増やしていくという。
なお、マツダは「Japan Mobility Show 2025」(プレスデー:10月29〜30日、一般公開日:10月31日〜11月9日)において、今回の共創活動を適用した新型クロスオーバーSUV「MAZDA CX-5」を、世界で初めて一般向けに展示する。
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