ネクスペリアの半導体供給停止問題、自工会も「深刻な影響を及ぼす事態」と認識:製造マネジメントニュース
日本自動車工業会(自工会)は「蘭半導体メーカーの情勢について」と題した会長コメントを発表した。この蘭半導体メーカーとは、オランダの汎用ロジック/ディスクリート半導体メーカーであるネクスペリアのことだ。
日本自動車工業会(自工会)は2025年10月23日、「蘭半導体メーカーの情勢について」と題した会長コメントを発表した。
自工会 会長である片山正則氏による会長コメントは以下の通り。
蘭半導体メーカーより納品が保証できない可能性について部品メーカーに通知があった事が確認されております。
現在、自工会会員各社において部品メーカーと緊密に連携して対応に当たっております。該当のメーカーが製造されるチップは電子制御ユニット等に使用される重要な部品であり、本件は会員各社のグローバル生産に深刻な影響を及ぼす事態であると認識しております。
関係各国により迅速かつ現実的な解決がなされる事を期待いたします。
この蘭半導体メーカーとは、オランダの汎用ロジック/ディスクリート半導体メーカーであるネクスペリア(Nexperia)のことだ。車載半導体大手であるオランダのNXP(NXP Semiconductors)の汎用ロジック/ディスクリート事業がスピンアウトする形で2016年に独立したネクスペリアは、NXPと同様に車載分野の売り上げ比率が高い。Webサイトのトップページでも、1万6000以上ある製品のうち車載グレード対応の製品が6000以上あることを強調している。
同社は2019年から中国のウイングテック・テクノロジー(Wingtech Technology)の傘下にある。米中対立が激化する中でウイングテック・テクノロジーは、米国産業安全保障局が2025年9月29日(現地時間)に発表した輸出管理制限延長の対象となり、子会社のネクスペリアも影響を受けることとなった。そしてこの事態を受けて、オランダ政府が2025年9月30日(現地時間)にネクスペリアの経営権を接収した。
EE Times Japanでも報じている通り、オランダ政府によるネクスペリアの接収は「深刻なガバナンス上の欠陥」が理由になっており、1952年に制定された「物品供給法」が基になっている。実際に適用された事例は少なく、オランダ政府も「物品供給法の発動は極めて例外的な措置」としている。
この物品供給法により、ネクスペリアは最大1年間、オランダ政府の明示的な許可なく、会社の一部の移転や現職役員の解雇およびその他の決定を行えなくなった。その目的は、ネクスペリアが製造する製品である車載向けを含めた汎用ロジック/ディスクリート半導体)が入手できなくなるのを防ぎ、オランダおよび欧州の経済安全保障を保護するためだ。
しかし、中国政府は2025年10月4日(現地時間)、オランダによるネクスペリア接収への報復措置として、ネクスペリアの最大の製造拠点である中国現地法人から製品や半完成品の輸出を禁止する輸出管理令状を発出した。
つまり、米国の輸出管理制限延長⇒オランダ政府による接収⇒中国の輸出管理令状初出という流れの中で、ネクスペリアの中国拠点からの製品供給が停止している。今回の自工会の会長コメントは、ネクスペリアから顧客であるティア1サプライヤーに「納品が保証できない可能性がある」という通知があったことを国内自動車業界内で周知するためのものだ。
ネクスペリアのロジック/ディスクリート半導体は、ECU(電子制御ユニット)に多数使用されているため供給が滞ると自動車自体の生産にも影響を与えかねない。ネクスペリアからの製品供給は停止しており、ティア1サプライヤーの保有分や市場在庫がなくなった場合は一部のECUが生産できなくなる。代替の半導体製品を組み込むための設計変更や品質確認などに時間がかかるとすれば、影響が長期にわたる可能性もある。
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