SynopsysとAnsysが統合 “Silicon to Systems”で描くエンジニアリングの未来:CAEニュース
アンシス・ジャパンは「Ansys Simulation World 2025」の開催に併せ、記者説明会を実施。SynopsysとAnsysの統合によって実現する“Silicon to Systems”の包括的なエンジニアリング環境や、AIを活用した次世代設計支援の取り組みについて説明した。
アンシス・ジャパンは2025年10月10日、年次イベント「Ansys Simulation World 2025」の開催に併せ、リアルとオンラインのハイブリッド形式で記者説明会を実施した。
「先進的なエンジニアリングの未来 Ansys, Part of Synopsysがお客様にもたらす力」と題し、Synopsys Ansysカスタマーエクセレンス担当バイスプレジデントのAnthony Dawson(アンソニー・ドーソン)氏が、Synopsysとの統合により実現されるシリコンからシステムまでを一貫して支援するエンジニアリング環境について説明した。
SynopsysとAnsysの統合で実現する“Silicon to Systems”
2025年7月17日(米国時間)に、Synopsysは約350億米ドルでAnsysを買収する手続きを完了した。これにより、Ansysのシミュレーション関連ソリューションはSynopsysの傘下に加わり、両社の統合が正式に始動したことになる。
今回の説明会では、統合によって生まれる新たな価値として、両社の技術を融合した包括的なエンジニアリング環境の構築が紹介された。
Synopsysが持つシリコン設計やEDA(電子設計自動化)の知見と、Ansysのシミュレーション/解析技術を組み合わせることで、“Silicon to Systems(シリコンからシステムまで)”を一気通貫で支援する体制を整えるとした。統合によって、シームレスな設計プロセスやシミュレーション主導のイノベーション、よりスマートな技術支援体制の確立を目指しているという。
ドーソン氏は「この統合は非常にエキサイティングだ。高度なエンジニアリングの未来はすでにここにあり、企業が日々直面する高度で複雑な課題を解決できると確信している」と語り、統合がもたらす技術的シナジーの大きさを強調した。
さらに、さまざまな顧客課題の解決に向けた取り組みの一つとして、GPUを活用した解析の高速化を進めている。例えば、高性能GPU「NVIDIA H100」への最適化によって、「Ansys Fluent」「Ansys Mechanical」「Ansys HFSS」などの主要ツールでパフォーマンスを大幅に向上させている。近年は、エンジニアリングAI(人工知能)戦略にも注力しており、AIを軸とした新たなソリューション展開を推進している。
デジタルファーストエンジニアリングで産業横断の変革を加速
Ansysは、設計から製品リリースまでの開発プロセスをデジタル環境で完結させる“デジタルファーストエンジニアリング”を推進している。Danfoss Drivesの事例では、開発サイクルを6〜9カ月短縮し、解析速度を100倍に向上。パイロットユースケースにおける誤差を1%未満に抑える成果を挙げた。
こうした成果を支える要素として“コネクテッドデジタルスレッド”の提供を挙げ、ドーソン氏は「要求仕様からシミュレーション、検証、製品リリースまでをつなぐことで、顧客のイノベーションを加速できる」と説明した。
General Motorsの事例では、デジタルエンジニアリングの活用により、15億米ドルの開発費削減や検証コストの半減、さらに2年間のプログラム開発期間短縮を実現したという。こうした事例を通じて、Ansysが目指す“シミュレーション主導の開発”が着実に成果を挙げていることを示した。
半導体、自動車、インフラ、航空宇宙など、多様な分野でデジタルエンジニアリングを横断的に展開する体制も整いつつある。例えば、TSMCとの協業では、エレクトロマイグレーションや電圧降下といった課題に対し、SynopsysのEDA技術とAnsysのマルチフィジックス解析を組み合わせて包括的な信頼性解析を実現している。TSMCが進める2nmプロセスや3D IC設計では、熱/構造/電気の各分野を横断するマルチフィジックス解析が不可欠であり、統合の効果が特に大きく表れているという。
また、宇宙分野ではAnsysが支援するSpace & Beamの取り組みが紹介された。同社はAnsysのシミュレーションソフトを活用し、軌道上の宇宙船を微小隕石(いんせき)や宇宙ゴミ(MMOD:Micrometeoroids and Orbital Debris)から保護する新しいシールドシステムを開発している。
「TSMCとの協業やSpace & Beamへの支援からも分かる通り、われわれはシリコンから最終的なシステムに至るまでシームレスなソリューションを提供している」(ドーソン氏)
さらに、仮想環境の自動化にも取り組んでいる。例として挙げたeVTOL(電動垂直離着陸機)の開発では、部品設計から性能検証、運用時の挙動シミュレーションまでを仮想空間上で統合的に解析し、現実環境に近い条件下での設計検証を実現している様子を示した。
AIアシスタント「Engineering Copilot」の提供やUXの統一も
Ansysは、ユーザーサポートの質向上と効率化を目的に、AIを活用したエンジニアリング支援にも力を入れている。設計/解析業務を支援するAIアシスタント「Engineering Copilot」は、Ansys製品に直接統合され、製品ナレッジの検索やサポートチケットの作成、トレーニング資料の参照などを自然言語で実行できる。最新リリース「Ansys 2025 R2」で利用可能となり、ユーザーは必要な情報や支援に即座にアクセスできる。
また、主要ツールのユーザーエクスペリエンス(UX)を統一し、モダンで一貫した操作環境を提供することで、ツール間の操作性や学習コストの改善にもつなげている。
ドーソン氏は最後に、「AnsysとSynopsysの統合はシームレスに進行しており、既存の協業関係やサポート体制は今後も継続される。お客さまとの協力関係もこれまでと変わらず続いていく」と述べ、説明会を締めくくった。
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