ソニーセミコンのAMRパッケージが3Dセンシングを実現、市販LiDARより安価に:ロボット開発ニュース
ソニーセミコンダクタソリューションズは「国際物流総合展2025 第4回 INNOVATION EXPO」において、新たに開発した3Dセンシングシステムを搭載したAMRソフトウェアパッケージ「Robotics Package」を披露した。
ソニーセミコンダクタソリューションズ(以下、ソニーセミコン)は、「国際物流総合展2025 第4回 INNOVATION EXPO」(2025年9月10〜12日、東京ビッグサイト)において、同社のAMR(自律移動ロボット)運用ソフトウェア「Robotics Package」向けに新たに開発した3Dセンシングシステムを披露した。
Robotics Packageは、AMRの経路計画や障害物回避を担うRNS(Robot Navigation System)と、複数台の群制御を可能にするFMS(Fleet Management System)を一体化した統合ソリューションである。2024年8月のサービス提供開始当初は、AMRの自己位置推定や環境認識に必要なセンサーとして市販のLiDAR(Light Detection and Ranging、ライダー)を用いていたが、2025年8月からは今回展示した独自開発の3Dセンシングシステムの提供を開始している。
3Dセンシングシステムはソニーセミコンを含む3社で共同開発した。ソニーセミコンが制御ソフトウェアを含めたシステム全体の開発を統括するとともに、センサー素子であるCMOSセンサーやdTOF(direct Time-of-Flight)センサーを提供した。センサーから収集したデータを3D情報に統合するとともにAMRの制御などを行うエッジコンピュータはアドバンテックが提供した。ソニーセミコン提供のセンサー素子を用いて3Dセンシングを行うためのユニットの開発は中国のSunny Optical Intelligence Technologyが担当した。

上側はアドバンテック製のAMR制御用エッジコンピュータ。下側はソニーセミコンのセンサー素子を用いたSunny Optical Intelligence Technology製の3Dセンシングユニット[クリックで拡大]
3Dセンシングの中心となるのはソニーセミコン製のdToFセンサーである。dToFセンサーはレーザー光が物体に反射して戻るまでの時間を計測することで、物体までの距離を検出する。画素数は24×24と多くはないものの、市販のLiDARと比べて横方向や高さ方向、奥行きを含めて広範囲を検出できることから、今回の3Dセンシングシステムの基盤となっている。「AMRが移動するための環境地図を作成したり障害物を把握したりする用途であれば十分な画素数だ」(SSSの説明員)という。
床など低い位置にある物体や垂直方向で形状の異なる棚など、市販のLiDARでは認識が難しい障害物の回避や、より多くの物体からの距離データを用いた高精度な自己位置推定の機能が実装可能になる。展示ブースでは、来場者の動きや周囲の棚がdToFセンサーによってリアルタイムに捉えられる様子が注目を集めた。
3Dセンシングシステムのセンサーユニットは、AMRの機体前方に設置する「Multi dToF/RGB LiDAR System」と機体後方や側方に設置する「dToF Depth Camera」から構成される。Multi dToF/RGB LiDAR Systemは、3つのdToFセンサーと、1つのフルHD解像度のCMOSセンサー、IMU(慣性計測ユニット)を統合したユニットだ。CMOSセンサーを搭載することで、2次元コードや型番の読み取りなどにも対応する。一方、dToF Depth Cameraは、1つのdToFセンサーのみを搭載するユニットで、Multi dToF/RGB LiDAR Systemだけでは検知が難しい死角を補完する。
新開発の3Dセンシングシステムは市販のLiDARより広範囲のセンシングが可能である一方でコストも抑えた。「市販のLiDARはメカニカルスキャン方式であることから高価になりがちだ。新開発のシステムはソニーセミコン内製のdTOFセンサーを用いるとともに、メカニカルスキャン方式ではないので価格が抑えられている」(ソニーセミコンの説明員)。
なお、AMR本体は武蔵精密工業が提供する。ソニーセミコンは、武蔵精密工業、ロジスティードソリューションズ、シーネットの3社を通じてAMRパッケージの受注を開始している。ソニーセミコン システムソリューション事業部 ロボティクスシステム開発部 統括部長の津高圭祐氏は「1社だけでは全領域をカバーできないが、それぞれに強みを持つパートナーと組むことで市場競争力の高いAMRが完成した」と共同開発の背景を語る。
当面の事業展開では物流倉庫のピッキングや搬送業務の効率化に注力しつつ、配膳ロボットや清掃ロボットといった他用途への展開も模索している。例えば、グループ会社のソニー・ミュージックエンターテインメントと連携し、AMRを用いたライブ映像撮影の実証実験に着手するなどしている。津高氏は「まずは物流で成果を示しつつ、幅広い業界への応用可能性を探っていきたい」と述べている。
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