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コンバージョンEVから「ネイティブEV」へ、建機の電動化の進み方電動化(2/2 ページ)

建設機械も脱炭素化が求められている。建設や不動産におけるカーボンニュートラルの達成に向けて、施工時のCO2排出削減が注目されているためだ。経済産業省は「日本の建設機械は国際的に高い産業競争力を有する」としつつも、パワートレインの多様化を急いでいる。

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コンバージョンEVからネイティブEVへ


欧州では電動建機の普及が先行している。ヤンマー建機はまずは「コンバージョンEV」で市場のニーズに応える[クリックで拡大]

 中国だけでなく、欧州も建機の電動化が進んでいる。環境対策への要望の強さだけでなく、燃料代に比べて電気代が安いことが普及を後押しし、「日本の20〜30倍の市場規模がある」(ヤンマー建機の担当者)という。ヤンマー建機も、欧州ではショベルやホイールローダー、キャリアなどの電動モデルを展開している。

 欧州以外では電動建機の普及はそれほど進んでいない。日本は電気代の高さだけでなく、車両のコストもネックになっているという。現状はエンジン駆動の既存の建設機械をベースに電動化した「コンバージョンEV(電気自動車)」であり、コストが下げ切れていない。

 ヤンマー建機では、2030年ごろに電動専用設計で「ネイティブEV」の電動建機を投入することを目指している。コストや電費、システム効率などを電動専用設計で追求することで、稼働時間も従来機種より伸ばす。また、現在ヤンマーグループの内外で採用されている小型ディーゼルエンジンのシェアの高さも生かす。自社の小型ディーゼルエンジンをモーターとバッテリーに置き換える中で量産効果によるコスト低減が狙える。

 コンバージョンEVの電動建機では稼働時間の短さが課題だが、稼働時間は作業による消費電力に大きく左右されるため、土木、畜産、解体工事などさまざまな業種に共通する「十分な稼働時間」を設定するのは難しい。ICTで稼働状況のデータを収集できる建設現場であっても必要な稼働時間はさまざまだ。「ネイティブEVの電動建機を投入するときには、稼働時間の長短で2種類の製品を展開していきたい」(ヤンマー建機の担当者)

しばらくはエンジン車ベースでスペースが限られる中で電動化するフェーズが続く[クリックで拡大]

移動式蓄電池が電動建機の電源に

 稼働時間の制限だけでなく、充電インフラの確保も電動建機の普及の足かせとなっている。電気が通っていない場所で作業する場合もあり、自動車のEVのようにステーションで充電するのは難しい。そこで、移動式の巨大な蓄電池を現場に設置するというアプローチを各社がとっている。

 ヤンマー建機は、クリーンな電力で移動式蓄電池を充電して建設現場に持ち込むことで、電動建機で使用する電力のCO2排出削減も進めたい考えだ。電動建機の普及の過渡期は、化石燃料による発電機との併用で、クリーンな電力で充電した蓄電池で部分的にでも電力を供給できればCO2排出削減が一歩ずつ進められるとみている。

日立建機(左)とヤンマー建機(右)は移動式蓄電池で電動建機の電欠に備える[クリックで拡大]

 日立建機も、移動式蓄電池に有線接続して充電しながら稼働できる建設機械を提案している。移動式蓄電池は九州電力と共同開発した。通常時は車両本体のバッテリーで駆動して作業し、バッテリー残量が少なくなってきた場合は有線で充電しながら稼働を継続できる。電欠の心配を解消し、電動建機導入のハードルを下げる狙いだ。

 現在は、5トン、8トン、13トンのショベル3機種が有線での稼働に対応している。「重掘削や走り回るのではない中負荷の作業なら4〜5時間の稼働時間を確保できる。現場での1日8時間の作業のうち、足りない3時間を有線でカバーする」(日立建機の担当者)。充電ケーブルは20mあり、広い範囲を有線で動き回ることができる。作業中の充電ケーブルの取り回しにも配慮している。

 移動式の蓄電池は電動建機だけでなく、災害時の非常用電源、コンセントによるさまざまな用途での充電などでも活用することを想定している。


充電しながら稼働できる日立建機の商品。ケーブルが巻き込まれないよう取り回しに配慮した[クリックで拡大]

水素エンジンやCO2回収でも取り組み

 電動化が進む一方で、エンジンとこれまで培ってきたノウハウにもまだまだ役割がある。ヤンマーパワーテクノロジーはディーゼルエンジンをベースに水素エンジンを仕立てた。元のディーゼルエンジンから部品は8割ほど共通だ。現在は試験室でエンジン単体のテストを行っている段階だ。

 「水素は燃料としての取り扱いが難しく、クセのある燃料だと感じている。ただ、安定して燃焼させる技術は徐々に見えてきている。水素エンジン用の部品はサプライヤーを頼るところもあるが、ディーゼルエンジンでやってきた自分たちのノウハウが生かせるところは生かしていく」(ヤンマーパワーテクノロジーの担当者)

 開発中の水素エンジンは、発電機やコンプレッサーなどの定置用の他、小型のバックホーローダー(ショベルとホイールローダーの機能を兼ね備える建機)をカバーできる出力だという。さらに出力が上がれば、ショベルカーやホイールローダー、フォークリフトなど用途が広がる見込みだ。ただ、水素タンクの搭載性を考慮する必要があるため、全ての建機を水素エンジンでカバーすることは考えていない。水素エンジンが向く用途を見極めて適切に展開する方針だ。

 水素エンジンが建機などで活躍するには、他のモビリティとともに水素を活用する環境が整うことが必要だ。商用車で水素エンジンや燃料電池の搭載が進み、大都市や港湾などで水素ステーションが整備されること、燃料電池で駆動するガントリークレーンなど水素を使う作業機械が普及することなどが、建機での水素活用にもつながっていく。

 フタバ産業と日立建機は、既存のエンジン駆動の建機に後付け可能なCO2回収システムの実証実験を行った。排ガスからCO2を分離、回収する。1日4時間の稼働でCO2排出を12%削減できることを確認した。今後はさらに改良し、建機だけでなくトラックでもCO2回収を検証する。パートナーである東京大学とも協力しながら開発を進めていく。


ヤンマーパワーテクノロジーが開発中の水素エンジン[クリックで拡大]

建設機械のCO2回収の取り組み[クリックで拡大] 出所:フタバ産業

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