コンバージョンEVから「ネイティブEV」へ、建機の電動化の進み方:電動化(1/2 ページ)
建設機械も脱炭素化が求められている。建設や不動産におけるカーボンニュートラルの達成に向けて、施工時のCO2排出削減が注目されているためだ。経済産業省は「日本の建設機械は国際的に高い産業競争力を有する」としつつも、パワートレインの多様化を急いでいる。
建設機械(建機)も他の産業と同様に脱炭素化が求められている。建設や不動産におけるカーボンニュートラルの達成に向けて、施工時のCO2排出削減が注目されているためだ。経済産業省は「日本の建設機械は国際的に高い産業競争力を有する」としつつも、パワートレインの多様化を急いでいる。
経済産業省の「GX建機普及に向けたロードマップ策定に係る研究会」が2025年1月に発表した中間とりまとめでは、日本国内の電動建機の「最大導入シナリオ」を示した。必達義務ではなく、今後も環境や市場に応じて柔軟に見直していくが、官民一体で達成を目指す数値だ。
最大導入シナリオでは、6トン未満のミニショベルで電動化比率を2030年に10%(新車販売で3000台)、2040年に30%(同1万台)と設定した。6トン以上の油圧ショベルの電動化比率は2030年に5%(同1000台)、2040年に20%(同6000台)としている。ただ、業界内からは「現状の電動化比率は1%にも届いていないが、補助金は購入を後押しできるレベルではない」という懸念の声も聞かれる。
建機の電動化は、施工時のCO2排出削減だけでなく、騒音や振動の低減によるオペレーターの疲労緩和、エンジンがなくなることによるメンテナンスコスト減少などさまざまなメリットが見込まれる。「第7回国際 建設・測量展(CSPI-EXPO2025)」(2025年6月18〜21日、幕張メッセ)でも電動建機の提案が盛んに行われた。
8トン以下のショベルは「フル電動しかない」?
建機や農業機械、発電機など産業用機械の動力源を手掛けるヤンマーパワーテクノロジーは、ディーゼルエンジンが主力だが、モーター駆動や水素エンジン、LPGと燃料のバイフューエルなどにも領域を広げて「エナジーダイバーシティー」を重視している。
これまで小型ディーゼルエンジンを搭載してきた8トン以下のショベルに関しては「フル電動しかない」(ヤンマーパワーテクノロジーの担当者)とみている。ショベルは旋回などの動作を行うため車両の形状やパッケージングに制限があり、電動パワートレインの搭載条件がシビアだ。水素エンジンや部品の増えるハイブリッドシステムは搭載が難しく、燃料電池ではコスト面がネックになる。e-fuelなどカーボンニュートラル燃料も、「小型ディーゼルエンジンには回ってこない」(同)という。
カーボンニュートラル燃料は航空機や自動車との取り合いだ。「大型ショベルなどであれば、台数も排ガスの量も大きいのでカーボンニュートラル燃料を使う意義があり、使う分が回ってくるかもしれない。しかし、小型ディーゼルエンジンはグローバルで見ると比率は小さいし排気量も大きくはない」とヤンマーパワーテクノロジーの担当者は説明する。カーボンニュートラル燃料を使ってCO2の排出量を減らす効果が他のモビリティに及ばないからこそ、モーターとバッテリーによるフル電動が有力になる。
ヤンマーパワーテクノロジーは建機メーカーにパワートレインを供給するサプライヤーの立場だ。次世代の建機は電動を前提にした設計になりそうだが、今後5年程度はエンジン駆動の車体をベースにした電動化が進むと見込んでいる。
8トン以下のショベルの電動化において、モーターは自動車用を流用できるが、バッテリーは建機の厳しい条件に合わせた専用のシステムでなければならないという。建機は、土ぼこりや路面の悪さ、振動、熱、気温などが自動車よりも厳しい環境で使われる。そのため高い耐塵性や耐振性を満たしたバッテリーシステムでなければならない。
また、自動車のように走行中の風を利用した冷却が難しいため、夏の厳しい温度環境にも対応した熱マネジメントも求められる。発火など安全対策に必要な冷却や、過充電を防ぐ制御も欠かせない。産業用機械のディーゼルエンジンで培ったノウハウを生かして対応する。
CSPI-EXPO2025では、5〜8トンのショベルを電動化できる水冷のバッテリーパックと、1トン程度の小型ショベル向けの空冷のバッテリーパックを展示した。インバーターやジャンクションボックスなども含めたパッケージとして提供し、建機メーカーはエンジンから置き換えれば電動建機を製品化できる。1〜8トンのショベルに向けて、数種類のバリエーションを用意して電動化のニーズに応えていく。
バッテリーセルは外部から調達し、ヤンマーパワーテクノロジーがシステムとして仕立てる。日本のセルメーカーは自動車メーカー向けに重点を置いており、建機向けに供給を勝ち取るのは難しい状況であることから、調達先の選択肢は中国と韓国だ。価格面でも中韓に強みがあるという。「中国は建機の電動化が先行している。電動建機向けのセルを中国から調達することは、市場での競争力の恩恵も受けられるかもしれない。ただ、米国でのビジネスを考えると中国のみを調達先にするのは難しい」(ヤンマーパワーテクノロジーの担当者)
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