フクロウの翼を模したドローン用プロペラが騒音を最大3dB減:デザインの力
千葉大学と三井化学は、フクロウの翼を模倣して開発したドローンのプロペラで騒音低減効果を実証した。プロペラのモデルは、都市部での航空物流や交通分野での応用が期待できる。
千葉大学は2025年5月28日、三井化学と共同で、フクロウの翼を模倣したドローン用プロペラを開発したと発表した。計算機シミュレーションにより騒音低減効果を実証しており、都市部での航空物流や交通分野への応用が期待される。
騒音の低減と空力性能はトレードオフの関係にあり、騒音を抑える設計変更は一般に空力性能を損なう傾向がある。例えば、プロペラの形状を変更して騒音を抑えた場合、推力や効率の低下を招くことがある。一方で、進行方向に最初に空気と接触する回転翼の前縁部は、形状や設計によって空力特性が大きく左右されるため、最適な形状を施すことで騒音低減効果を得ることが可能である。
今回の研究では、三井化学が提供したマルチローター無人航空機向けプロペラのモデル形状に、静音飛行が可能なフクロウの翼を模した鋸歯(きょし)形状を適用し、計算機シミュレーションを実施した。鋸歯形状を前縁部に組み込んだ複数パターンのプロペラにおける空力音響特性を解析した結果、「SER6」モデルにおいて最大3dBの騒音低減効果を確認。同時に、空力性能の指標であるFM値では4〜8%の軽微な低下にとどまった。
前縁部の鋸歯形状の最適化は、振幅や幅(波長)といった幾何学的パラメーターに大きく依存する。今回の解析では、幅および振幅を各6mm、間隔を8mmとした鋸歯(SER6)において、騒音低減と空力効率のバランスが最も良好であることが判明した。これにより、騒音低減と空力性能という相反する要件の最適化には、鋸歯寸法の設計が重要な役割を果たすことが示された。

フクロウの翼の構造理解からプロペラ設計の流れ。(a)フクロウの翼の形態、(b)フクロウの第10主羽根、(c)クリーンなベースラインのプロペラ(CLE)と、鋸歯の大きさが異なる3つの鋸歯状のプロペラ(SER3、SER6、SER9)、(d)CLEモデルの正面図、(e)鋸歯形状の特徴[クリックで拡大] 出所:千葉大学
今回のシミュレーションで使用したプロペラモデルは、直径72cm以上の大型サイズであり、大型ドローンや空飛ぶクルマ(空モビリティ)への実装も視野に入る。重量の大きな機体に搭載することで、都市部における航空物流や次世代交通への応用が期待される。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
パナソニック FLF、メーカー思考から脱却した共創プロジェクトの成果を披露
デザインR&Dに特化して活動するパナソニックのデザインスタジオ「FUTURE LIFE FACTORY」は、東京・表参道の拠点「FUTURE LIFE FACTORY OMOTESANDO」で「OUR PRODUCTS展」を開催した。ペンギンの翼をモデルに開発 自動車空調システム用ラジアルファンを発表
MAHLEは、ペンギンの翼をモデルに開発した自動車空調システム用ラジアルファンを発表した。搭載スペースが限定された車両向けに設計しており、空力特性を最適化したことで低騒音化と高効率化を可能にした。あら不思議、被せるだけで音が静かに PxDTが音響メタマテリアル通気遮音材を提案
ピクシーダストテクノロジーズ(PxDT)は「第29回 機械要素技術展」に出展し、音響メタマテリアル技術を応用した同社独自の遮音技術、吸音技術について訴求していた。さまざまな家電の性能アップに貢献しているシャープの生物形態模倣技術
シャープは「CEATEC 2023」のアドバンスドテクノロジーエリアに出展し、15年の歴史を誇る同社独自の生物形態模倣技術「ネイチャーテクノロジー」の歩みと新プロダクトについて訴求していた。ガラスの反響音を抑えた快適な空間を創出する、透明吸音パネルを開発
イトーキとピクシーダストテクノロジーズは、ガラスに貼れる透明吸音パネル「iwasemi HX-α」を共同開発した。人の声に含まれる500〜1000Hzの周波数帯に特化した吸音構造設計を採用し、ガラスに囲まれた空間で起こる反響音を抑える。クジラのヒレ構造をスピーカーのダクトに応用、バイオミメティクス技術の第2弾
オンキヨーは、クジラのヒレの構造から着想を得た低ノイズ高能率「ボルテックスジェネレーターダクト」の開発に成功したことを発表した。