IoTで品質管理を強化するための手順と管理のポイント:あらためて取り組む中小製造業のIoT活用(5)
本連載では、あらためて中小製造業がIoT導入を進められるように、成功事例を基に実践的な手順を紹介していく。第5回は、IoTを活用した品質管理の強化に向けて、検査結果や製造条件の収集/分析を行うための手順と管理のポイントを解説する。
前回は、設備保全管理の強化を行うためCBM(Condition Based Maintenance:状態基準メンテナンス)による金型管理のメンテナンス精度向上の手順やPLCのデータ収集による設備稼働監視の方法について解説しました。
今回はIoT(モノのインターネット)を活用した品質管理の強化に向けて、検査結果や製造条件の収集/分析を行うための手順と管理のポイントを解説します。
⇒連載「あらためて取り組む中小製造業のIoT活用」バックナンバー
1.品質管理の目的と強化のポイント
品質管理の目的は「顧客が満足する製品を経済的に作り出すこと」にあります。
- 製品の欠点を防止する
- 製品や作業におけるバラツキを少なくする
- 作業の不具合をなくすとともに効率向上を図る
そのために以下の2つのポイントを軸に対応を図ります。
- (1)事前に予測し予防する方法を考える
- (2)発生したものや類似の事例に対し再発防止を図る
しかしながらこれらの対応を行う上でも次のような問題が発生します。
- 問題1:(2)の対応をしたいが不具合が発生した際の5M1E※)に関わる情報不足や分析に時間がかかり、要因にたどり着けず再発防止策を立案できない
- 問題2:(1)の対応をしたいが日々の生産活動の中で5M1Eが変化することにより不具合が発生するため、不具合結果につながる要因をあらかじめ特定できない
※1)5M1E:Man(人)、Machine(機械)、Material(材料)、Method(加工方法)、Measurement(計測)、Environment(環境)
問題1と2については、それぞれ以下の対策1と2が考えられます。
対策1:不良実績の把握と要因分析
- 収集した不良実績のパレート図を作成して不良の層別をする
- 不良の多い原因から順番に不良発生の要因を解析して再発防止につなげる
基本的にはQC7つ道具※2)を使用して分析を行います。1.については不良実績をパレート図で層別して不良実績の多いものから順番に原因調査を行います。2.で不良の要因を解析するためには、製造条件と呼ばれる各工程で製造する過程で使用している5M1Eの内容や特性値を見て不具合原因を明確にします。
※2)QC7つ道具:パレート図、ヒストグラム、管理図、散布図、特性要因図、チェックシート、層別
対策2:変化点管理による予防措置
- QC7つ道具を使用して製造条件の推移を定期的にチェックする
- 工程能力指数や上下限の基準値とのバラツキを見て不具合の発生を検知し、予防措置を講じる
こちらは工程能力指数を管理指標として使い、品質の実態を定量的に確認します。工程能力指数が基準を下回るような場合にその要因を確認して品質確保の対策を行います。
例えば、社内の工程における設備や治工具、金型に問題があれば、該当箇所のメンテナンスを行います。使用した部品や材料の特定のロットに問題があれば、仕入先に通知をして良品のロットを再納入してもらいます。
2.品質ビッグデータの収集/活用するためにExcelではなくBIツールを使う
先述の「対策1」で説明した、パレート図による不良の層別についてはExcelでも管理できますが、不良の要因を特定するために製造条件を収集/分析するには、IoTでシリアル単位や一定間隔のビッグデータを収集することになります。しかし、Excelで扱おうとすると分析できるデータ量に制限があるため絞り込んだデータで分析を繰り返すと時間がかかり、要因の特定ができないまま時間切れになってしまいます。
そのためIoTで収集したビッグデータはBIツールを使って分析することが有効です。
製造条件の収集方法については連載「トヨタ生産方式で考えるIoT活用【実践編】」の第2回、第3回、第4回を参照してください。
⇒連載「トヨタ生産方式で考えるIoT活用【実践編】」バックナンバー
「対策2」についても同様に、日/週/月の期間で生産したロット単位の各工程の製造条件をQC7つ道具で分析しようとしても、大量のデータによりExcelでは変化点をタイム
リーに確認することができず、不良の発生前に気付くことができない状況にあります。
そこで、BIツールを用いてデジタルビッグデータによるQC7つ道具の解析を行います。デジタルQC7つ道具については連載「トヨタ式TQM×IoTによる品質保証強化」の第7回を参照してください。
⇒連載「トヨタ式TQM×IoTによる品質保証強化」バックナンバー
IoTとBIツールの組み合わせにより、今まで難しかった不具合発生の要因を特定し、再発防止につなげられるようになります。また、工程能力指数を見ながら製造条件の変化点を見ていくことで問題発生を防止し品質管理の強化にもつなげられます。ぜひ取り組んでみてください。(次回に続く)
「ExcelユーザーのためのPower BI品質解析入門」が発売中
本連載筆者の山田浩貢氏が執筆した「ExcelユーザーのためのPower BI品質解析入門」(日科技連出版)が発売中です。
これまでの製造業のデータ分析はExcelが主流でしたが、Excelのみではビッグデータの活用には対応できません。本書ではExcelよりも大量データが扱えるMicrosoftのBIツール(Business Intelligence tool:データを集約、可視化、分析することで、意思決定や課題解決を支援するツール)であるPower BIを使用して、「見える化」から解析といったデータ活用の手順を具体的に解説します。
BIツールによるデータの「見える化」と解析を行うための手順について、QC7つ道具で使用する具体的なグラフサンプルの作成手順を解説しています。書籍購入の方は、株式会社アムイのWebサイトからPower BIの基本データを無償でダウンロードできます。ぜひご一読下さい。
筆者紹介
株式会社アムイ 代表取締役
山田 浩貢(やまだ ひろつぐ)
NTTデータ東海にて1990年代前半より製造業における生産管理パッケージシステムの企画開発・ユーザー適用および大手自動車部品メーカーを中心とした生産系業務改革、
原価企画・原価管理システム構築のプロジェクトマネージメントに従事。2013年に株式会社アムイを設立し大手から中堅中小製造業の業務改革、業務改善に伴うIT推進コンサルティングを手掛けている。「現場目線でのものづくり強化と経営効率向上にITを生かす」活動を展開中。
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