「自動車産業のノウハウが生きた」ボッシュが水素製造で全力:ハノーバーメッセ2025
Robert Boschが、世界最大級の産業見本市「ハノーバーメッセ(HANNOVER MESSE) 2025」において、水素製造のためのプロトン交換膜(PEM)電解槽スタック「Hybrion」を初公開。水素製造の心臓部である電解装置に本格参入する姿勢を示した。
Robert Bosch(以下、ボッシュ)は、世界最大級の産業見本市「ハノーバーメッセ(HANNOVER MESSE) 2025」において、水素製造のためのプロトン交換膜(PEM)電解槽スタック「Hybrion」および、Hybrionを搭載したモジュラーコンテナソリューションを初公開。水素製造の心臓部である電解装置に本格参入する姿勢を示した。
エネルギー源としての水素は、特に再生可能エネルギーから製造される場合に、さまざまな分野での脱炭素化のために期待されていて、電解分野は2030年までに世界で100〜170ギガワット(GW)の生産能力が見込まれるという。こうした背景からボッシュは、戦略的成長分野と設定。2030年までに水素分野の売上高が数十億ユーロ規模に達すると予想している。
トラック用の燃料電池技術から生まれたHybrion
ボッシュが開発したHybrionは100層を超える電解セルを積層したもので、出力1.25メガワット(MW)で、水と電気から1時間当たり最大23kgの水素が生成可能。これは燃料電池駆動の40トントラックであれば250〜300km走行するのに十分な量だ。製造は当初、ドイツ・バイエルン州のバンベルク工場で行う予定で、既に量産準備は整っているという。
同社のセールス/エネルギー市場 事業開発担当シニアバイスプレジデントであるMatthias Ziebell(マティアス・ツィーベル)氏は「Hybrionは100個以上のスタックを積み重ねた高密度/高精度のセル技術によって実現しているが、この専門知識は主にトラック用の燃料電池から来ている。そしてそれはバンベルク工場でも量産されているもので、多くのノウハウがある。また、当社は部品の潜在的な欠陥や汚染を検出するAIカメラシステムも導入しているが、これらの専門知識も全てボッシュの自動車産業での経験から生まれたものだ」と説明。「これは数十年にわたりバンベルクの自動車産業で培ってきたボッシュのノウハウが、新技術のために転換されつつあるという好例だ」と強調していた。
会場では今回、このHybrion PEM電解槽スタックを2基搭載した、2.5MWのモジュラーコンテナソリューションも公開。ボッシュのパートナーでコンテナ型電解システムの開発/製造/販売を手掛けるドイツのFESTが提供するものだ。なお、このコンテナソリューションは、2025年中にボッシュのバンベルク工場で水素サイクルの一部として稼働する予定で、ボッシュは製造した水素を、同じくバンベルクで製造される燃料電池スタックの耐久試験などに使用する予定だという。
Hybrionは効率の面でも利点があるといい、ツィーベル氏は「ボッシュでは効率が特に高いことからプロトン交換膜技術を選択しており、70%以上になるだろう」と説明。またFESTのモジュールソリューションについては、排熱の再利用によって原理的には75〜80%を達成可能だとしている。
Hybrionは柔軟にスケーリングが可能であり、ボッシュは1MWから始まるモジュール式プラントからギガワット級の大規模産業プラントまで幅広い展開も狙う方針だ。2025年には欧州の複数のパートナーと共同でプロジェクトを進める計画で、正式な販売開始前の時点で既に約100MWの受注も獲得。例えばNeuman & EsserはHybrion16基を、20MWの電解槽に統合するという。なお、電解槽で使用する水は一定以上の高品質である必要があるが、ボッシュは塩水を純水にできる水処理システムなども提供していることから柔軟な対応が可能としていた。
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