ボッシュ(Robert Bosch)は2023年5月4日、ソフトウェア領域を強化するため自動車事業を再編成すると発表した。
ソフトウェアによってクルマの使い方やユーザー体験だけでなく設計方法が変化する最中にあることを受けて、社内で最大の事業部門となる「ボッシュモビリティ」として2024年1月1日から活動する。世界66カ国の300以上の拠点と23万人の従業員が所属する。現在の事業部門「モビリティソリューション」としての売上高は前年比16.0%増の526億ユーロ(約7兆8000億円)だ。年平均6%の成長を継続し、2029年までに800億ユーロ(約11兆8800億円)以上の売り上げを目指す。
ボッシュモビリティは次のような部門で構成される。「Electrified Motion」はeAxleからシートアジャスターまでモーターにかかわる全てを担当する。「Vehicle Motion」はABSやESP(横滑り防止装置)、ステアリングなどビークルダイナミクス全般を手掛ける。「Power Solutions」はエンジン技術や燃料電池、水素エンジン、水素を生成する水電解装置などを扱う。
また、「Cross-Domain Computing Solutions」では自動運転などさまざまな分野のソリューションを開発する。「Mobility Electronics」は車載用半導体やECU(電子制御ユニット)の開発を推進する。これ以外にも、交換用部品や整備事業のフランチャイズを担当する「Mobility Aftermarket」、電動自転車用のソリューションの「E-Bike Systems」、OSや開発ツールを手掛けるETASもボッシュモビリティに属する。
さらに、米国の半導体メーカーであるTSIセミコンダクターズの事業の一部を買収することも、ボッシュモビリティの事業拡大に貢献する。米国カリフォルニア州で14億ユーロ(約2000億円)以上を投資して生産設備を改修し、2026年から200mmウエハーでSiCパワー半導体の生産を開始する計画だ。
自動車用ソフトウェアの市場規模は3倍に拡大
ボッシュモビリティの責任者はボッシュの取締役会メンバーであるMarkus Heyn氏が務める。成長の柱となるのは自動車用ソフトウェアで、市場規模は2030年までに2020年比3倍となる2000億ユーロ(約29兆6600億円)を大幅に超える可能性があるという。現在、ボッシュは自動車用ソフトウェアの領域での成長率が2桁に上る。ソフトウェア向けの開発コストの比率は30%を超えており、ボッシュモビリティの研究開発の人員は50%以上がソフトウェアエンジニアとなる。
ボッシュはソフトウェアデファインドビークル(ソフトウェア定義車両、SDV)が2025年から大規模に導入されると見込む。SDVでは、既存のシステムに新しい機能を実装するまでの期間を数年から数日に短縮できる。また、ソフトウェアとハードウェアの開発を切り離すことで、ソフトウェアを継続的に更新していくことも可能だ。
SDVの実現は、集中化されたE/E(電気/電子)アーキテクチャと深く関わる。現在、高級車では100個以上、コンパクトカーでも30〜50個のECUが搭載されており、E/Eアーキテクチャは複雑化している。この複雑さをコントロールし、信頼性を高めるために、車両の機能ごとにドメインでまとめて高性能なコンピュータを使用してECUの数を大幅に減らす。ボッシュはこのアーキテクチャ全体を手掛ける。
ボッシュモビリティではこれまで分かれていた部門間のコラボレーションも加速させる。例えば、車両制御にはブレーキシステムだけでなく電動化されたパワートレインやステアリングシステムも介入することで安全性を高められる。ボッシュが得意とするブレーキコントロールシステムと、ソフトウェアを組み合わせてこれを実現する。ソフトウェアを実装するのはブレーキシステムのECUに限らず、セントラルビークルコンピュータへの統合にも対応する。さらに、ソフトウェアのみのパッケージとしても利用できるようにしていく。こうしたトレンドを受けてソフトウェアアプリケーションは3倍に増加し、クラウドへのアクセスは10倍多くなると見込む。
この他にも、燃料電池やバッテリー、水素エンジン、ブレーキ、ステアリング、パワートレインの環境技術などを車内に持つ。これらのハードウェアに必要なECUは年間2億5000万台に上り、そのソフトウェアも手掛ける。ボッシュモビリティではハードウェアとソフトウェアの両方を手掛けられる強みを生かしていく。
2022年の業績
ボッシュの2022年の売上高は前年比12.0%増の882億ユーロ(約13兆800億円)で増収だった。為替の影響を加味しても9.4%のプラスだったという。税引き前利益も前年から6億ユーロ(約890億円)増加の38億ユーロ(約5600億円)に増加した。研究開発費は7.2億ユーロ(約1060億円)で、前年から増やしている。
2023年は2022年に比べてグローバルの経済成長率が1.7%と冷え込むと予測するが、売上高は前年比で6〜9%増、営業利益率5%程度を計画している。
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