段ボール生産計画に進化計算を適用 さらに応用先を広げ生産工程DXを推進:進化計算の最新動向を知る(3/3 ページ)
段ボールの生産計画の立案に進化計算を適用し、生産工程のDXにつながる成果を生み出した東芝デジタルエンジニアリングと電気通信大学大学院 情報理工学研究科 情報学専攻 教授の佐藤寛之氏との共同研究について話を聞いた。
進化計算のさらなるスピードアップを目指す
最適化にはさまざまな手段があるが、進化計算の利点の一つは対象の中身をブラックボックスとして扱い最適化できることである。最適化対象をモデル化する必要がないため、複雑な業務システムに対して、そのまま最適化する仕組みを提供できる可能性が高い。
佐藤氏は「多目的最適化のための進化計算は複数の解を出力します。そのため、人が解を選ぶ意思決定の過程を設けることが可能です。こうすることで、コンピュータが人に命令する構図にはならず、現場に受け入れられやすいシステムになります。さらに、熟練者の経験を意思決定に生かすこともできます。これは多目的進化計算のメリットだと考えています」と語る。
また同時に、「過程がブラックボックスなので、なぜそれが最適なのかを分かりやすく説明し保証してくれるような技術が出てくることを期待しています」と、佐藤氏は最適化の技術的な課題についても言及する。
今後の取り組みについて、佐藤氏は「進化計算のさらなるスピードアップが必要だと考えています。現状は最適化においてランダムな解集合からスタートするため、非常に時間がかかる場合があります。そこで過去の情報を活用して途中からスタートできればよいと考えています。段ボールの注文が前日と同様であれば、前日の最適化した結果を活用し、それを毎日繰り返すことで、雪だるま式に最適化を加速できると考えています」と意気込む。
国内では少子高齢化と労働人口の減少という社会課題があり、システムのさらなる効率化や大規模化が求められている。それに伴い、構築されるシステムも複雑化するため、そこに進化計算が適用される機会は増えるとみられる。このような状況について、佐藤氏は「進化計算は最適化問題を解く手法として認知度が高く、効果も期待できます。しかし、現状ではまだ十分に活用されているとはいえません」と語る。
近年は、計算機の性能が飛躍的に向上し、さまざまな業務におけるビッグデータの蓄積や情報システムによる管理も当たり前となり、進化計算の活用に向けて追い風が吹いている状況にある。「今まさに、身の回りに発生している最適化問題に取り組める環境が整いつつあり、進化計算の適用範囲はこれからも広がると思います」と佐藤氏は今後の発展に期待を寄せる。
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