検索
特集

現実世界は最適化問題であふれている、SDGs時代にみる「進化計算」の可能性進化計算の最新動向を知る(1/2 ページ)

ビッグデータの活用が求められる中、注目を集めているのがAI技術の1つである「進化計算」だ。最適化アルゴリズムについて研究する電気通信大学大学院 情報理工学研究科 情報学専攻 准教授の佐藤寛之氏に、最新の共同研究である三菱電機のZEB(net Zero Energy Building)における設備運用最適化およびアスクルの在庫配置最適化の事例、そして最適化問題で特に利用されている進化計算の最新状況について話を聞いた。

Share
Tweet
LINE
Hatena

 ビッグデータの活用が求められる中、注目を集めているのがAI(人工知能)技術の1つである「進化計算」だ。進化計算で主に使用される遺伝的アルゴリズムは、優秀な解同士を遺伝子交配のように掛け合わせることを繰り返して、より良い解を求める。この手法は、例えば「使用する電力量は減らしつつ、生産性は確保したい」といった相反する関係にある問題の解を、1回の実行で求められるのが特徴だ。「実世界は、相反する目的の中でバランスを取りながら解を求める状況であふれています」と、最適化アルゴリズムについて研究する電気通信大学大学院 情報理工学研究科 情報学専攻 准教授の佐藤寛之氏は述べる。佐藤氏に、最新の共同研究である三菱電機のZEB(net Zero Energy Building)における設備運用最適化およびアスクルの在庫配置最適化の事例、そして最適化問題で特に利用されている進化計算の最新状況について聞いた。

年間で実質消費エネルギーゼロのオフィスビルを実現

電気通信大学大学院 情報理工学研究科 准教授 佐藤寛之氏
電気通信大学大学院 情報理工学研究科 准教授 佐藤寛之氏

 建築分野では、ZEBの取り組みが増えている。ZEBとは“正味の(net)消費エネルギーがゼロのビル”という意味だ。断熱や採光を工夫した建物、空調運用の効率化、太陽光発電などを組み合わせることで、年間の1次エネルギー収支がゼロまたはマイナスになる建物のことである。

 三菱電機は、ZEBを実現するための技術実証棟「SUSTIE(サスティエ)」(図1)を1年間運用し、国内の中規模オフィスビルで初めてZEBを実証したと、2021年11月に発表した(図2)。ZEBでは設備運転の際、「快適性の維持と消費エネルギーの最小化」という相反する問題に取り組む必要がある。そこで、三菱電機はビルの設備運転計画を導出するために、進化計算による多目的最適化を利用した。

三菱電機情報技術総合研究所のZEB技術実証棟「SUSTIE」外観
図1 三菱電機情報技術総合研究所のZEB技術実証棟「SUSTIE」外観[クリックで拡大] 出所:三菱電機(ニュースリリース
1年間における1次エネルギー消費量の収支(2020年10月19日〜2021年10月18日)
図2 1年間における1次エネルギー消費量の収支(2020年10月19日〜2021年10月18日)[クリックで拡大] 出所:三菱電機(ニュースリリース

 ZEBの達成においては、進化計算を用いた多目的最適化技術と、ビルシミュレーターの組み合わせが不可欠だった。ビルシミュレーターについては、三菱電機がBIM形式の設計データから床面積や断熱性などの建築情報を抽出し、またビル設備の型名や性能などの情報を収集。それらを基に、ビルの状態を再現したデジタルツインを構築した。このデジタルツイン上で、設定温度や調光率、年間の気候変動および在室人数の変化などを再現。最適なパラメータを求める進化計算と組み合わせることにより、設定温度や調光率などの運転計画および、消費エネルギー量と快適性を導出することに成功した(図3)。

ビル設備運用最適化システムの全体像
図3 ビル設備運用最適化システムの全体像[クリックで拡大]

目的関数を6つ設定

 三菱電機では当初、目的関数を消費電力量と満足度の2つだけとして多目的最適化に取り組んでいた。三菱電機と佐藤氏との共同研究では、消費電力量と満足度に加えて、電気料金、温熱の快適性、空気の質、明るさを加えた計6つの目的関数を設定し、1年間の空調、照明、換気装置に関する制御パラメータ群を最適化することに取り組んだ。

 消費電力量に電気料金を加えたのは、ビルが利用する電力会社との契約上、ピーク時の消費電力量によって、料金体系が変わるためである。そのため、ピーク値をなるべく抑えるような目的関数を追加する必要があった。満足度とは、温熱の快適性、空気の質、明るさに重み付けをして足し合わせたものだが、実際にはそれぞれの兼ね合いによっても快適さは変化するため、各パラメータを個別に扱う必要があったという。

 さらに苦労したのは、パラメータを指定してビルシミュレーターに送り込み実行する際、シミュレーターの計算に時間がかかることだった。そこで、シミュレーション回数を抑えつつ、良い制御パラメータを得られるようアルゴリズムを工夫した。これにより、6つの目的のトレードオフ関係を示す制御パラメータを効果的に取得できるようになった。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

       | 次のページへ
ページトップに戻る