ADRAS-Jが切り開くデブリ除去への道、フルレンジ非協力RPO技術を実証:宇宙開発(3/3 ページ)
JAXAとアストロスケールが商業デブリ除去実証(CRD2)プロジェクトのフェーズI「ADRAS-Jミッション」の成果を発表。同ミッションの目標である「フルレンジ非協力RPO(ランデブー、近傍運用)技術の実証」を達成しており、今後は2027年度の衛星打ち上げを予定しているデブリ除去を行うフェーズIIの準備を進めていくという。
ターゲットデブリに大きな劣化はなく、ほぼ静止状態であることを確認
JAXA 研究開発部門 商業デブリ除去実証プロジェクトチームの岡本博之氏は、ADRAS-Jが撮影した観測画像データから判明したことについて説明した。
2009年に打ち上げられたH2-Aロケットの上段部であるデブリは、15年以上宇宙空間の中で真空、熱、紫外線、放射線、原子状酸素などにさらされている。しかし、実際には著しい形状変化はなく、大きな材料劣化状況も見当たらなかった。
例えば、燃料タンクの断熱材は打ち上げ時のオレンジ色から紫外線に長期間さらされることで焦げ茶色になっていた。これは、地上で行った着色予測実験の結果と同じである。このほか、白色塗装部も茶褐色に変色していた。ただし、熱制御材の鏡面成分や、打ち上げ時に段間部に存在していた銀色のテープは残っており、15年以上経過しても大きな変化がないことを確認できている。CRD2のフェーズ2におけるデブリ除去では、PAFをデブリの捕獲に用いることが想定されている。このPAF周辺も打ち上げ時から大きな変化がないことを確認した。
デブリを除去するためにその姿勢や運動の状態を知ることは非常に重要だ。今回の観測では、デブリはLVLH座標系に対してほぼ静止しており、デブリの捕獲に用いるPAFが地球に向いていることが分かった。
「軌道上サービスに対する市場の見方が極めてポジティブになった」
アストロスケール 代表取締役社長の加藤英毅氏は、ADRAS-Jミッションの経営的評価について説明した。
同社は、地上の物流やエネルギー、通信、公共インフラなどと同じように、宇宙にもアフターサービスとサポートを提供することが宇宙の持続開発を可能にすると考えている。加藤氏は「宇宙のロードサービスとして、軌道上サービスを提供していく」と語る。
ADRAS-Jミッションの経営的評価では、デブリへのフルレンジRPOや周回観測、15mまでの最終接近といった「世界初」とする成果に加えて、JAXAとの間での密な情報共有にいる透明な運用を通して、軌道上サービスに対する市場の見方が極めてポジティブになったことを挙げた。
今後は、ADRAS-Jミッションで蓄積したRPO技術を生かして、CRD2のフェーズ2において大型デブリ除去を実現するだけでなく、燃料補給サービスや安全保障プログラムへの貢献なども目指していくという。
なお、アストロスケールは2025年2月27日、防衛省から機動対応宇宙システム実証機の試作の受注を発表しており、安全保障プログラムへの貢献という目標にも近づきつつある。
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