アストロスケールがデブリ観測衛星「ADRAS-J」を公開、手の届く距離まで最接近:宇宙開発
アストロスケールは、JAXAの商業デブリ除去実証プロジェクト「CRD2」のフェーズIに採用された衛星の実機「ADRAS-J」を報道陣に公開した。
アストロスケールは2023年9月7日、本社(東京都墨田区)に併設する工場で、JAXA(宇宙航空研究開発機構)の商業デブリ(宇宙ごみ)除去実証プロジェクト「CRD2」のフェーズIに採用された衛星の実機「ADRAS-J」を報道陣に公開した。JAXA 筑波宇宙センターでの各種試験や検査が完了しており、今後は2024年3月末のミッション終了期限をめどに打ち上げ準備を進めることになる。
CRD2は、日本由来の大型デブリの除去をJAXAと民間企業が協力して行うプロジェクトである。CRD2は、観測用の衛星によって大型デブリの状態を「手を伸ばせば届く」くらいの距離から詳細に映像撮影するフェーズIと、フェーズIの情報を基に開発したデブリ除去用の衛星で大型デブリの捕獲と除去を行うフェーズIIに分かれる。アストロスケールは、JAXAの技術アドバイスや試験設備、知財などを活用しつつ、フェーズIで用いる衛星の開発から、打ち上げ、デブリへの接近、観測に至るまで、プロジェクト運営の全てを任されており、そのために開発した衛星がADRAS-Jである。
ADRAS-Jのサイズは、アストロスケールが2021年3月〜2022年4月にかけて実証を行った世界初のデブリ除去技術実証衛星「ELSA-d」とほぼ同じだ。両側部にある太陽光パネルを展開した場合にはELSA-dよりも少し大きくなるという。
CRD2のフェーズIでは、大型デブリに「手を伸ばせば届く」くらいの距離まで近づくととともに、その周囲を回って観測する周回観測も行わなければならない。そのためにADRAS-Jの機体上面にはさまざまなセンサーが搭載されている。大型デブリへの接近は、打ち上げから軌道に乗った後の数百kmまではGPSと地上観測による絶対航法を用いるが、この数百km以降はセンサーでデブリとの距離を計測しながら近づくことになる。数百〜数kmは可視光カメラを、数k〜数十mは赤外カメラを、数十m〜最接近はLiDAR(Light Detection and Ranging、ライダー)を用いる。これらの他、各センサーで計測した距離情報の正確性を確認するためのレーザーレンジファインダーも併用する。
前面の下部にあるSバンドのアンテナ。裏側の後面にはXバンドのアンテナがある。絶対航法で移動する場合などでは、Sバンドのアンテナがある前面を宇宙側に、Xバンドのアンテナがある後面を地球側に向けることになる[クリックで拡大]
最接近した後は、まずはADRAS-Jが静止した状態でLiDARによるデブリの点群データの取得を行い、その後周回観測によってデブリの点群データを全方向から取得する。
また、JAXAは、対象デブリにぶつからないことを最重要の要件として求めているため、ADRAS-Jにはさまざまな冗長化設計が施されている。例えばスラスターについては、直方形の機体の上面と下面それぞれの四隅の他、上面に2つ、下面に2つ取り付けられており、どれかのスラスターの不具合があっても衛星を動かせるようになっている。センサー群もほぼ全てが二重化されており、一方が故障しても観測を継続できる。
なお、JAXAとアストロスケールは2023年9月26日にADRAS-Jの打ち上げ予定時期をはじめとするミッションの詳細を発表する予定だ。
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