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打上延期も気後れなし、アストロスケールのデブリ除去実証衛星「ADRAS-J」が完成宇宙開発(1/2 ページ)

アストロスケールは、宇宙ごみであるデブリ除去の技術実証に向けて開発した衛星「ADRAS-J」のミッションや搭載技術について説明。2023年11月に予定していた打ち上げは延期となったものの、2024年3月末をめどとするミッション完了に向け鋭意準備を進めている。

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 アストロスケールは2023年9月26日、東京都内で会見を開き、宇宙ごみであるスペースデブリ(以下、デブリ)除去の技術実証に向けて開発した衛星「ADRAS-J」のミッションや搭載技術について説明した。同年11月に米国Rocket Lab(ロケット・ラボ)のロケット「Electron」で打ち上げる予定に合わせてADRAS-Jは完成しており、射場のニュージーランドに送る準備が進んでいたものの、9月19日にRocket LabのElectronの打ち上げが失敗したことを受けて、現在は原因究明を経てからロケット再打ち上げ準備が整うのを待っている状況にある。「Rocket Labはこれまでも打ち上げ失敗はあったがクイックに復旧してきた。当社としては2024年3月末までにADRAS-Jのミッションを完了できるように準備を進めていきたい」(アストロスケールホールディングス 創業者兼CEOの岡田光信氏)としている。

会見の登壇者
会見の登壇者。左から、JAXA 研究開発部門商業デブリ除去実証チーム長の山元透氏、アストロスケール 上級副社長の伊藤美樹氏、アストロスケールホールディングス 創業者兼CEOの岡田光信氏、アストロスケール ADRAS-Jプロジェクトマネージャーの新栄次朗氏、同社 ADRAS-J チーフシステムエンジニアの井上寿氏[クリックで拡大]

 岡田氏は「この1〜2年で、デブリ除去を含めた軌道上サービスへの注目が一気に高まっている。今後5〜10年の年平均市場成長率を見れば、世界のGDPが約3%であるのに対して、宇宙産業が約7%で成長産業として認識されている。そして軌道上サービスは、宇宙産業の平均を大きく上回る20〜40%と予測されている。3〜4年前に市場が全くなかったころのことを考えると隔世の感がある」と語る。

今後5〜10年の年平均市場成長率
今後5〜10年の年平均市場成長率。軌道上サービスは20〜40%に達するという[クリックで拡大] 出所:アストロスケール

 その背景には、衛星やデブリを含めて地球周回軌道上にある物体の数が急激に増加していることがある。衛星データの活用範囲は拡大し、これまで参入していなかった国や民間企業も宇宙産業に参入している上に、Starlinkをはじめとする通信衛星コンステレーションの計画も積み上がっている。特に、現時点でプロジェクト数が100以上ある通信衛星コンステレーションは1プロジェクト当たり数百〜数千の衛星を打ち上げるため、地球周回軌道上の物体の数は足元で2次曲線な増加となっている。

 これと同期して衛星とデブリのニアミス(1km以内)も急激に増加しており、2022年には2020年の3倍となっている。1kmというと遠いイメージがあるが、秒速7〜8kmの速度で移動する衛星にとっては衝突しかねない近さだ。衝突を回避するために推進システムを使ったマヌーバの回数も増えており、例えばStarlinkの場合1日6回のマヌーバを行っているという。衛星が衝突によって利用できなくなるリスクだけでなく、マヌーバが増えるだけでも、各衛星のROI(投資収益率)が低下しているのが現状だ。2023年も、軌道上で既に5件の破砕事例があり2023年8月に起きた2件は、デブリ同士の衝突とみられている。「このデブリ同士の衝突から生まれた破片が新たなデブリになり、軌道上の持続可能性を低下させている。可能な限り回避しなければならない事態だ」(岡田氏)。

 JAXA(宇宙航空研究開発機構) 研究開発部門商業デブリ除去実証チーム長の山元透氏も「現在、10cm以上の大きさで同定できているデブリが約2万7000個、同定できていないものを入れれば約3万6000個あるといわれている。1cm以下であれば50万〜90万個以上、1mm以下だと1億個以上に達する。これ以上のスペースデブリが増えないための方策の一つとなるのが、大型デブリの大規模な衝突によるmm〜cm級の微小デブリの発生を抑えることだ。これらの微小デブリは現実的な対処法がなく、増えれば増えるほど軌道上でさらなる問題を引き起こす。JAXAでは、この大型デブリの大規模な衝突を避けるための商業デブリ除去実証プロジェクト『CRD2』を推進しており、その実施主体としてアストロスケールが開発したのがADRAS-Jだ」と述べる。

「ADRAS-J」の外観
「ADRAS-J」の外観[クリックで拡大] 出所:アストロスケール

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