打上延期も気後れなし、アストロスケールのデブリ除去実証衛星「ADRAS-J」が完成:宇宙開発(2/2 ページ)
アストロスケールは、宇宙ごみであるデブリ除去の技術実証に向けて開発した衛星「ADRAS-J」のミッションや搭載技術について説明。2023年11月に予定していた打ち上げは延期となったものの、2024年3月末をめどとするミッション完了に向け鋭意準備を進めている。
重量約3トンのデブリであるH2Aロケット上段に5m以下まで接近
2013年に創業したアストロスケールは、持続可能な宇宙利用に向けてデブリ除去を含めた軌道上サービスを2030年までに提供することを掲げて事業を推進してきた。同社が想定する軌道上サービスは、衛星運用終了時の除去を行う「EOL」、既存大型デブリを除去する「ADR」、燃料補給などにより宇宙機の寿命を延長する「LEX」、観測/点検を行う「ISSA」の4つがある。
今回のADRAS-Jは、JAXAの商業デブリ除去実証プロジェクトであるCRD2のフェーズIで採用された。CRD2では、高度約600kmにあるH2Aロケット上段(2009年打ち上げ)が対象物体(クライアント)となっている。全長11m、直径4m、重量約3トンという大型デブリだ。フェーズIでは、ADRAS-Jの軌道投入後に非協力物体であるH2Aロケット上段に接近するとともに近傍での運用を実証し、長期に渡り放置されたデブリの運動や損傷/劣化の状態を撮影する。デブリの状況の詳細を把握することが目的でありデブリ除去は行わないものの、アストロスケールとしては4つの軌道上サービスの内ADRに位置付けている。なお、デブリ除去は2026年度以降に計画しているフェーズIIで実施する予定だ。
ADRAS-Jのミッションは、アストロスケールが世界初のデブリ除去技術実証衛星「ELSA-d」で実証してきた非協力物体へのRPO(分離、誘導接近、捕獲)技術を基に進められる。まずは、地上からの観測データを基に対象物体に接近しやすい軌道に投入した後、GPSデータを用いた絶対航法により対象物体から数百km程度の位置まで近づく。そこからは、センサーで対象物体を捉えた状態での相対航法に移行。数百〜数kmは可視光カメラ、数k〜数百mは赤外線カメラ、数百〜数十mがLiDAR(Light Detection and Ranging、ライダー)と、対象物体との距離でセンサーを切り替えながら近づいていく。また、各センサーで計測した距離情報の正確性を確認するためにレーザーレンジファインダーも併用する。
対象物体まで数十mまで接近した後は、まず定点観測を行ってから、対象物体を周回して観測する周回観測を行う。30秒に1回の頻度で撮影を行う定点観測と周回観測は、JAXAが主体となるミッションだ。アストロスケールは、この観測データから対象物体の検査および診断を行ってから、LiDARを用いて5m以下までの極近傍接近を試みる。極近傍接近に成功した後は「エクストラミッション」を行う予定だが、その内容については現時点では非公開となっている。エクストラミッション終了後はミッション全体の終了処理となり、対象物体であるH2Aロケット上段の近傍から安全に離脱して周回軌道に入り、5年以内に再突入が可能な状況にしておくという。
ADRAS-Jは、外形寸法が幅830×奥行き810×高さ1200mm。太陽光パネル展開時には幅は約3700mmとなる。燃料を搭載した状態のウェット重量は150kg。開発では、先述したセンサー群を活用して対象物体に接近するための「航法(ナビゲーション)」だけでなく、数百万回のシミュレーションに基づいて現在の状況下でどのようにスラスターを噴射すれば最適なのかを決める専用アルゴリズムによる「マヌーバプラン(ガイダンス)」、航法とマヌーバプランに基づき安全かつ正確に対象物体に接近し、万が一の際にも対象物体に衝突ないためにスラスターを使って積極的に軌道を外れるアボートマヌーバや、内部機能の不全を隔離して機能を復旧させるFDIR(Failure Detection Isolation and Recovery)なども行う「制御(コントロール)」などで、さまざまな工夫と取り入れている。
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