天然メタンハイドレートを非破壊で構造観察することに成功:研究開発の最前線
産業技術総合研究所は、十勝沖の海底で採取した天然メタンハイドレートを非破壊で構造観察し、海水中での様子と分解過程のその場観察に成功した。メタンハイドレートの生成、分解の挙動や堆積物の物性などの理解が進むことが期待される。
産業技術総合研究所(産総研)は2025年2月3日、十勝沖の海底で採取した天然メタンハイドレートを非破壊で構造観察し、海水中での様子と分解過程のその場観察に成功したと発表した。北見工業大学、高エネルギー加速器研究機構、九州シンクロトロン光研究センターとの共同研究で明らかにした。
表層型メタンハイドレートは、海水中で成長、凝集し、堆積物と交じり合うことで形成される。主に海底近くの泥層中に塊で存在し、新たなエネルギー資源として期待されている。
今回の研究では、メタンハイドレート堆積物中の構造による力学特性など物性を把握するため、放射光X線を使った低温型位相コントラストX線CTと低温型マイクロX線CTによる観察を実施。位相コントラストX線CTによる高密度分解能観察では、メタンガス気泡の周りに膜状メタンハイドレートが生成され、このとき形成されたと考えられる擬似球状構造が維持されていた。
この試料を粉末X線回折で調査したところ、白色部分の65%がメタンハイドレート、35%が凍結した海水だと分かった。位相コントラストX線CTの推定と同様のことが示され、その観察結果が正確であることが証明できた。
また、マイクロX線CTによる高空間分解能観察では、膜状メタンハイドレートの隙間の層に海水に含まれる塩の凝集を確認できた。メタンハイドレートの成長時に排出された塩が濃縮されたものと思われ、塩の分布を3次元的に可視化することに成功した。さらに、海底から試料を回収する際に膜状メタンハイドレート外表面の分解によって生じたと思われる数μmサイズの微気泡も可視化できた。
マイクロX線CTでその場観察を実施すると、大気圧で−10℃まで昇温した際のメタンハイドレートの分解時の時間変化を観察できた。メタンハイドレート内部の粒界から優先的に分解され、氷近辺のものは分解されずに残っていた。これは、メタンハイドレートが成長する際に析出した塩が粒界内に入り込んだことが要因だと思われる。
表層型メタンハイドレートは、日本近海や世界各地のメタンハイドレート分布域に存在する。同手法により他海域のサンプルも観察することで、メタンハイドレートの生成、分解の挙動や堆積物の物性などの理解が進むことが期待される。
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