2030年には採算ラインに? パナソニック エナジーが強化するEV電池リサイクル:CES 2025
パナソニックグループは、エレクトロニクスを中心とした最先端テクノロジーの展示会である「CES 2025」のオープニングキーノートで、北米でEVバッテリーのリサイクルを積極的に推進する方針を明らかにした。狙いについて、パナソニック エナジー 代表取締役 社長執行役員 CEOの只信一生氏の話をお伝えする。
パナソニックグループは、エレクトロニクスを中心とした最先端テクノロジーの展示会である「CES 2025」(2025年1月7〜10日、米国ネバダ州ラスベガス)のオープニングキーノートで、米国の電池リサイクル企業であるRedwood Materials(以下、レッドウッド)と協業し北米でEV(電気自動車)バッテリーのリサイクルを積極的に推進する方針を明らかにした。
これらの取り組みの狙いについて、CES 2025会場で報道陣の囲み取材に応じた、パナソニック エナジー 代表取締役 社長執行役員 CEOの只信一生氏の話をお伝えする。
レッドウッドと協業して北米でのEVリサイクルを加速
パナソニック エナジーでは2019年にレッドウッドとパートナーシップを結び、テスラのギガファクトリー内のリチウムイオン電池生産会社「パナソニック エナジー ノースアメリカ(PENA)」で出る廃材のリサイクルを行ってきた。さらに、これらを発展させ、2022年11月にはカーボンフットプリント低減や、北米でのサプライチェーン確立、現地調達率の向上を目的に、EV用リチウムイオン電池の正極材と銅箔についての売買契約を発表。PENAの廃材を通じて生み出されたリサイクル材料で作られた正極材と銅箔の購入を行う。
リサイクル正極材は、カンザス州デソトの新工場で製造されるリチウムイオン電池に使用される予定で、さらにリサイクル銅箔についてはPENAで製造されるリチウムイオン電池で採用し、資源が循環する体制を構築している。オープニングキーノートでレッドウッドのCEOのJB Straubel(ジェイビー・ストラウベル)氏は「今はパナソニックグループからの廃材料や古い電池が毎日Redwood Materialsに届き、そこからコバルト、リチウム、ニッケル、銅などの重要鉱物の98%を回収し、パナソニックグループに電子部品材料として戻している」と語っていた。
EVバッテリーリサイクルへの取り組みについて、パナソニック エナジー 代表取締役 社長執行役員 CEOの只信一生氏は「資源量が限られることや地政学的な問題を考えると、資源を同一域内で循環させることが安定供給を行う上でも重要になってきている。EVも普及から10年以上が経過し、都市鉱山として活用できる土壌が生まれてきた。2027〜2028年頃から採算面でもバランスが取れる領域が出てくると見ている。さらに、鉱山から新しく資源を掘り出して電池を作るよりもリサイクルを行った方がCO2排出量が少なくなる試算も出ており、積極的に取り組むべきテーマの1つだ」と考えを述べる。
レッドウッドとの協力体制では、リサイクル技術の開発について基本的にはレッドウッドが行うが、再生材を電池材料として使用する際の評価や、仕様の策定、これらに合わせた技術的指導などをパナソニック エナジーで行う。「再生した材料が電池として再度生産されるために必要なスペックを必要になるが、それらを作りこむためのノウハウを提供する」(只信氏)。
これらの資源循環がビジネスとして軌道に乗る時期については「ボリューム次第なので明確なことはいえないが、期待としては2030年にバランスを取るつもりで新たな技術の開発を進めている。資源価格の高騰があれば、さらに早まる可能性もあるが、現状は今のベースで資源価格は想定して進めている」と只信氏は語っている。
「EV市場は正常化しただけ」
成長に鈍化が見られるEV市場だが、只信氏は「正常化しただけだ」と強調する。
「CES 2025の会場を見ても、農機や建機も電動化を大きなテーマとしている。乗用車としてのEVは、当初のような大きな成長ではなくなったが、これは過度な成長期待が正常化しただけだと捉えている。では、これからEV市場が停滞するのかというと、乗用車も着実に伸びる他、商用車や農機、建機でもこれから伸びることを考えると、まだまだ安定的に成長する」(只信氏)
それに伴い、電池についても4680セルの量産拡大なども含め、さらなる研究開発や投資を進めていく方針だ。「まだまだやれることは多い。電池の性能を伸ばすことができればEVの性能を高められる段階なので、さまざまな研究を進めていく」と只信氏は語っている。
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