東北大学と上智大学は2025年1月22日、航空機主翼の空気抵抗低減と構造軽量化を両立する設計手法を開発したと発表した。複合材料を用いた航空機主翼に特有の大きなたわみが設計に及ぼす影響を詳細に明らかにした。研究成果は、航空機設計のデジタルツイン化の基盤を強化し、開発期間の短縮に貢献するとしている。また、複合材料の活用が促進されることで、従来にない形態の航空機の設計支援にもつながると見込んでいる。
航空機では炭素繊維強化プラスチック(CFRP)が広く使われており、従来の金属製では難しい高アスペクト比の細長い主翼を採用できるため空気抵抗の低減が可能になる。ただ、CFRPの内部で生じる数マイクロメートルの破壊現象が数十メートルの主翼に及ぼす影響を完全に予測するのは難しいという。また、細長い主翼は大きくたわむが、通常の線形数値解析を用いた変形予測ではたわみを正確に捉えられていない。
東北大学流体科学研究所 学術研究員のLiu Yajun氏、准教授の阿部圭晃氏、大学院工学研究科(当時)の伊達周吾氏、教授の岡部朋永氏らと、上智大学理工学部 教授の長嶋利夫氏の研究チームは、多目的最適化フレームワークを構築し、空気抵抗と構造重量をバランスよく低減できる主翼形状を数値的に明らかにした。さらに、既存の線形解析のみをベースにした設計では予想よりも大きな力が主翼にかかり、危険な設計になりうることも判明した。
研究により、最適な主翼形状に対して大変形状態を正確に予測できる幾何学的非線形解析を取り入れることで通常の線形解析での設計よりも構造重量がわずかだが増加し、主翼の変形も大きくなることを示した。この傾向はアスペクト比の高い翼ほど大きくなり、主翼上下面の板厚分布に変化が生じることも分かった。
研究では、巡航時に平衡状態となる空気力と構造変形を予測し、なおかつ主翼が破壊しないよう構造部材の寸法を調整する数値解析法を基盤とし、遺伝的アルゴリズムによる主翼平面系の多目的最適化手法を組み合わせることで空力性能と構造性能の最適化を実現した。
多目的最適化においては、空気抵抗と構造重量の最小化を目的関数とすることで、高アスペクト比の細長い主翼が空気抵抗を低減する一方で構造重量が増大するトレードオフの傾向を数値的に再現可能であることを示した。
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