データを生みだすプロダクトの価値をさらに高める、日立産機が描く勝利の方程式:日立の新成長エンジン「コネクティブ」の全貌(3)(3/3 ページ)
日立の製造業としての側面を色濃く残すコネクティブインダストリーズ(CI)セクターに迫る本連載。第3回は、中量産の産業機器事業を展開する日立産機システムをクローズアップする。
企業文化の変革に挑戦、描く勝利の方程式
MONOist 社長就任後はどのような取り組みを進めてきましたか。
竹内氏 日立はモーターを淵源としているが、日立産機システムではより多くの産業機器を取り扱っており、変圧器やポンプ、コンプレッサーなど工場のユーティリティー系と、モーターやそのコントローラー、PLC、インクジェットプリンタなど生産ラインで使われる製品の2つに大きく分かれている。
その中で、日立産機が生産ラインの構築を手掛けるケーイーシーを2019年に買収したが、当社と同じくインダストリーセクターの傘下にあった産業・流通ビジネスユニット(現インダストリアルデジタルビジネスユニット)が主導する形で2019年にロボティクスSI事業を展開する米国のJR Automation(JRオートメーション)を買収している。この2社は、ロボットを中心に生産ラインを構築するロボティクスSI事業という観点で事業内容は同じだ。
ただし、ケーイーシーは国内、JRオートメーションは米国という点ですみ分けはできている。そこで、産業・流通ビジネスユニットの下にケーイーシーを移管して、グローバルでのロボティクスSI事業を強化できる体制を構築することになった。日立産機システムとしては、現在手掛けている中量産の産業機器から“飛び地”になるものには手を出さず、それらの産業機器の中でもグローバルに競争できる製品の展開に集中する方針を打ち出している。
日立産機システムの社内に向けた施策としては、カルチャートランスフォーメーション(企業文化の変革)のプロジェクトを始めた。社内で同じような経験を持った人たちが、同じように決断をしていても何も変わらない。ゴールを設定して、そこに向かってカルチャーを変えていくプロジェクトを行っている。3年目になり、徐々に手応えを感じている。
若手を中心に一緒になって変革を進める“アンバサダー”を選んでおり、これまで変わらなくてはいけないと感じていもなかなか動けなかったベテランにも、そういった若手の姿を見て変化が見え始めた。
価値創造時間という制度も始めた。これは1日30分、上長に許可を得ずに本業以外の自由な目的に使っていい時間だ。1週間分などをまとめてとってもいい。語学の習得に使ってもいいし、業務改善のためのワークフローを作ってもいい。
リフレッシュ金曜日として金曜日の午後に定例会議などを入れない試みをしている。その週の振り返りと、次の週への準備に充ててほしいからだ。
MONOist 2024年には三菱電機から配電用変圧器事業を譲渡されました。今後の事業展望を教えてください。
竹内氏 日立グループとしては日本の送配電分野をまだ強化しなければならない。日立産機システムと日立エナジーが一緒になって取り組んでいくが、われわれは国内に注力していく。ただ、グローバルではAI(人工知能)需要などを背景に、エネルギー消費が増加する。日立エナジーも生産能力を増強するために投資しているが、場合によってはわれわれから日立エナジーに変圧器を供給するケースもあるかもしれない。
世界の電力消費の40%がモーターともいわれているほど、産業用モーターが消費するエネルギーは大きい。われわれのコンプレッサーやポンプにもモーターは使われている。そのため、モーターの効率を上げることで、サステナビリティに貢献できる。引き続き、モーターの効率向上を進めていく。
永久磁石を使用したPM(パーマネントマグネット)モーターなどの新しい技術が登場しているが、それらモーターには全てコントローラーが必要になる。
そのコントローラーをハードウェア主体で設計するのではなく、ソフトウェアによって機能を定義する「ソフトウェアデファインド」にすることで、全て共通のコントローラーで制御できるようにしていく。ネットワーク経由でソフトウェアのアップデートが可能になるOTA(Over The Air)によって今まで以上の価値を提供できるようになる。
このモーターのコントローラーをソフトウェアデファインドにする取り組みは、日立インダストリアルプロダクツが手掛けている建機ドライブシステムのコントロール部分などにも横展開できるのではないかと考えている。
日立グループとして再びプロダクトの重要性に目を向けている。それは、プロダクトがデータを生むからだ。CIセクターでは、データを集めてくる共通のプラットフォームを作っている。全てのプロダクトがつながれば、そこから出てきたデータを使って予兆診断などが可能になる。
プロダクトから集めたデータを基に、日立グループのDSS(デジタルシステム&サービス)セクターと一緒にデジタルテクノロジーを極限まで活用し、顧客にさらに大きな価値を提供していくことが、勝利の方程式になる。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 日立製作所の成長は「これからが本番」、産業系セクター率いる阿部氏が描く青写真
日立製作所では2022年4月に多様な産業系事業を傘下に収めたCIセクターを設立した。本連載では多彩な事業を抱える日立製作所 CIセクターの強みについて、それぞれの事業体の特徴と、生み出す新たな価値を中心に紹介していく。第1回となる今回は新たにCIセクター長に就任した阿部氏のインタビューをお届けする。 - 祖業を継承する日立インダストリアルプロダクツが目指す“素敵なモノづくり”
日立の製造業としての側面を色濃く残すコネクティブインダストリーズ(CI)セクターに迫る本連載。第2回は、日立の祖業であるモーターの事業を継承する日立インダストリアルプロダクツをクローズアップする。 - 日立産機が配電用変圧器で国内トップ確立へ、第3次トップランナー基準に向け着々
日立産機システムが配電用変圧器事業の戦略について説明。カーボンニュートラルへの対応で年率50%増で需要が高まっているアモルファス変圧器を強みとしながら、2024年4月に発表した三菱電機の配電用変圧器事業の買収を着実に進めるなどして、国内におけるマーケットリーダーの地位を確実に築き上げていく方針である。 - スーツケースが簡易ガイドレスAGVに、制御プログラムはラダー言語で組める
日立産機システムは、「IIFES 2024」の日立製作所ブースにおいて、レーザー測位システム「ICHIDAS Laser」を中核とした「ガイドレスAGV開発キット」を展示した。 - 日立産機が“設備コンシュルジュ”を参考出展、生成AIとIoTサービスを組み合わせ
日立産機システムは、「IIFES 2024」において、生成AIとIoT接続による遠隔設備監視が可能な「FitLiveサービス」の組み合わせによる、設備コンシェルジュサービスを参考出展した。社内での実証を経て、2024年度以降の市場投入を検討している。 - AI機能搭載の外観検査装置、正常データだけで飲食料品の目視検査を自動化
日立産機システムは、AI機能を搭載した外観検査装置「Edge AI Machine Vision」の実証実験を開始した。正常データだけで学習と推論ができるため、飲食料品の外観検査の負担を軽減し、目視検査の自動化に貢献する。