作りたい製品をODMメーカーに伝える製品仕様書の書き方:ODMを活用した製品化で失敗しないためには(6)(3/3 ページ)
社内に設計者がいないスタートアップや部品メーカーなどがオリジナル製品の製品化を目指す際、ODM(設計製造委託)を行うケースがみられる。だが、製造業の仕組みを理解していないと、ODMを活用した製品化はうまくいかない。連載「ODMを活用した製品化で失敗しないためには」では、ODMによる製品化のポイントを詳しく解説する。第6回のテーマは「製品仕様書の書き方」についてだ。
曖昧に決めている内容は、決めているところまで書く
スタートアップの支援でこのような話をすると、「どこまで詳細に書けばよいのか分からない」と質問されることがあるが、筆者は「決めているところまで書くこと」と答えている。これを、前述の「ストラップで首からつるせる」を例に説明する。
ストラップで首からつるすだけでよいのであれば、「ストラップで首からつるせること」と書けばよい。ただし、この場合は図3に示す通り、ストラップの取り付け位置が6通り考えられ、どれを選ぶかはODMメーカーに一任される。
ストラップで首からつるせて、製品を水平にしたいのならば「製品が水平になるように、ストラップで首からつるせること」と記載する。この場合は2通り考えられ、どちらを選ぶかはODMメーカーに一任される。
製品が水平になるように、ストラップで首からつるせて、さらにすぐ手に持って使える状態にしたいのならば「製品が水平になるように、ストラップで首からつるせて、製品を手に持ったときに液晶画面が正立して手前になるようにすること」と書く。この場合であれば、選択肢は1通りしかない。
つまり、「ストラップで首からつるせること」だけでも設計内容は何通りもあるため、スタートアップはどこまで自分たちがこだわっているのかを自問自答して決めていく必要がある。
決めたいが決められない場合は、使い方を説明する
ここまでの説明に従って製品仕様書を作成しようと思っても、「何をどう決めてよいかどうしても分からない……」というスタートアップもいるだろう。そのような場合には、製品の購入から使い終わるまでの製品の使用状況をODMメーカーに伝えるのがよい。
以下、市役所に置いてある申請書記入用のボールペンの製品化を例に説明する。
1)市役所の担当者が、新品のボールペンの包装を開封する
2)テーブルのペン立てにボールペンを入れる
3)住民がボールペンを手に取り、申請書に記載する
4)記載後、ボールペンをテーブル上に置いたり、ペン立てに戻したりする
5)3)4)を繰り返し、いずれボールペンのインクがなくなる
6)市役所の担当者がインクの残量を見て、なくなっていればボールペンを破棄する
上記の内容(使用状況)をODMメーカーに伝えれば、ODMメーカーは以下のように製品仕様を決めることができる。
- 使い捨てボールペンなので、包装材は安価なポリ袋
- クリップは不要(製品仕様書に書かない)
- キャップ式は紛失するのでノック式
- インク交換式ではなく、使い捨て式
- インクがなくなっているのが見えるように、表面は透明の樹脂
- 使い捨てなので、リサイクル樹脂を使用
以上のような製品仕様をODMメーカーに提案してもらい、お互いのやりとりによって製品仕様書(最終)を作成していく。ただし、この場合は製品仕様書のほぼ全てをODMメーカーが作成したといえるので、製品仕様書の作成費用が別途必要になる場合もある。 (次回へ続く)
筆者プロフィール
オリジナル製品化/中国モノづくり支援
ロジカル・エンジニアリング 代表
小田淳(おだ あつし)
上智大学 機械工学科卒業。ソニーに29年間在籍し、モニターやプロジェクターの製品化設計を行う。最後は中国に駐在し、現地で部品と製品の製造を行う。「材料費が高くて売っても損する」「ユーザーに届いた製品が壊れていた」などのように、試作品はできたが販売できる製品ができないベンチャー企業が多くある。また、製品化はできたが、社内に設計・品質システムがなく、効率よく製品化できない企業もある。一方で、モノづくりの一流企業であっても、中国などの海外ではトラブルや不良品を多く発生させている現状がある。その原因は、中国人の国民性による仕事の仕方を理解せず、「あうんの呼吸」に頼った日本独特の仕事の仕方をそのまま中国に持ち込んでしまっているからである。日本の貿易輸出の85%を担う日本の製造業が世界のトップランナーであり続けるためには、これらのような現状を改善し世界で一目置かれる優れたエンジニアが必要であると考え、研修やコンサルティング、講演、執筆活動を行う。
◆ロジカル・エンジニアリング Webサイト ⇒ https://roji.global/
◆著書
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