「鎖」の形が変わるサプライチェーン その中で製造業が勝つためには:物流のスマート化
MONOistが開催したオンラインセミナー「サプライチェーンセミナー 2024 秋〜デジタル化による革新と強靭化〜」から、ローランド・ベルガー パートナーの小野塚征志氏による「サプライチェーンの課題と進化への道筋」と題した基調講演の一部を紹介する。
MONOistは2024年11月6、7の両日、製造業界が直面するサプライチェーンの課題解決を目指すオンラインセミナー「サプライチェーンセミナー 2024 秋〜デジタル化による革新と強靭化〜」を開催した。その中から、ローランド・ベルガー パートナーの小野塚征志氏による「サプライチェーンの課題と進化への道筋」と題した基調講演の一部を紹介する。
調達から販売後まで徹底したサプライチェーン最適化を
ローランド・ベルガーは企業経営を支援する戦略系のコンサルティングファームだ。本社はドイツのミュンヘンにあり、欧州やアジアに多くの拠点を持つ。日本では1991年から活動を展開し、自動車、機械、化学などの分野のエキスパートがそれぞれの業界で企業活動を支援している。
小野塚氏はサプライチェーンやロジスティクスなどの領域を担当してきた。サプライチェーン領域では、調達、生産から販売に至るまでのプロセスを最適化することでのコスト削減、収益力の強化などの分野に取り組んでいる。この他、グローバルサプライチェーンの構築やマネジメント力の強化、プラットフォームビジネスの展開などのテーマについてもサポートする。
講演で、小野塚氏はまず「サプライチェーンマネジメントとは、調達や生産、販売など個別のプロセスではマイナスになることであっても、企業全体の最適化に資するのであれば、それを実行しようとする取り組みだ。これによって全社の収益は高まっていく」と紹介した。また、社内だけではなく調達先や納品先なども含めて、トータルで考えることの重要性を説明した。
「例えば、あるシステムを作った場合、それを共通のシステムとして調達先にも納品先にも使ってもらえれば、結果として在庫や流通の状況を見える化できる。サプライチェーン全体で大きなメリットを生み出せる」(小野塚氏)
素材の調達から製品がユーザーのもとに届くまでの全プロセスを最適化することが理想だ。ただ、日本の企業はこうしたサプライチェーンマネジメントが苦手なところが少なくない。工場など生産現場では効率化が進んでいるが、それぞれの担当領域の垣根を越えて、垂直型で最適化を進めることが徹底されていない。小野塚氏は「これが日本の会社のサプライチェーンにおける課題となっている」と指摘した。
CLOが果たすべき役割とは
この課題に関連して、大きく転換点となり得る出来事があった。流通業務総合効率化法と貨物自動車運送事業法、いわゆる「物流関連2法」の2024年5月の改正だ。一定の規模以上の事業者はCLO(物流統括管理者)を設置することや、中長期の計画を作成して報告することなどの追加的な義務が課せられる(これは2026年4月施行予定)。
この改正の重要なポイントは、物流会社だけでなく、荷主のメーカーにも義務が課されるところだ。一定規模以上の荷主とは、年間9万トン以上の貨物がある企業を指す。運送会社は150台以上のトラックを保有する会社、倉庫会社は年間の入庫量が70万トン以上の会社が該当する。ただし、この基準は現在検討中で決定していない。特定事業者の取扱貨物量9万トン以上というのは、出荷量だけでなく、入荷量も対象となる。
さらに、CLOは従来のように物流を管理する単なる物流部長としてではなく、役員として就任することが求められている。物流を担当するだけなく、調達や生産/製造、販売までの業務を見渡して、サプライチェーンやロジスティクス全体を最適化するミッションが課せられる。その意味で今回の法改正は、CLOを選任し、取引業者の協力を受けながらサプライチェーンの最適化を行うよい契機となっていると言える。
近い将来、店舗はショールームに?
サプライチェーンの未来を考える上でもう一つ注意したいのが、サプライチェーンが「(従来の)『鎖』の形ではなくなってしまうかもしれない」(小野塚氏)という点だ。これまで取引実績がなかった企業と取引を始めるなど、これまでの慣習通りではないアクションを求められた場合、新たなつながりを前提にした最適化を検討しなければならない。場合によってはそのつながりはWebを介したものになるかもしれないが、いずれにせよ、そこでも最適化追求が重要だ。
自動車業界を例に挙げると、もともと同業界の完成車メーカーとサプライヤーは開発段階から密接に連携して取り組む関係にあった。また、新車販売は完成車メーカー系列のディーラーで扱っている。
しかし、今後EV(電気自動車)の販売量増加が予想される中で、既存の垂直統合型のサプライチェーンが揺らぎつつある。モーターやバッテリーなど、それぞれの部品を新たな調達先から得て組み合わせ、商品として提供する。ユーザーも系列ディーラー以外で購入するケースが増加すると予想される。そうなれば、これまでの固定的な結び付きを前提とした活動が大きく変化する。
家電業界でも同様の変化が生じている。製造面ではマスカスタマーゼーションへの対応が要求され、販売面では店頭で購入するのではなく、直納するD2C(Direct to Consumer)の方式が広がりつつある。将来的に、店舗は単なるショールームとなり、実際の販売はWeb経由で行う時代が到来するかもしれない。
付加価値の創出方法も大きく変わりそうだ。PCはスペック面ではなく、故障などがあったときに修理を素早く行うサポート力で差別化するようになる可能性もある。「モノ売りからコト売りへの変化が進む中で、サプライチェーンの在り方も変わる。日本中どこでも、さらに世界中でもすぐにサポートできるネットワークをもつ企業が勝つことになるのではないか」(小野塚氏)。
食品やアパレル業界でも変化が起きつつあり、今後他の業界でも新規取引の企業が増えることが予想される。そうなると既存の自社システムのみでは次第に対応しきれない企業が増え、「生産」「物流」「消費」の各領域でプラットフォーマーのサービスを活用したDX(デジタルトランスフォーメーション)が進む可能性がある。
具体的には、モノづくりの部分をつなぐことでの生産性の最大化(マニュファクチャリングプラットフォーマー)や、調達/生産から販売/消費に至るまでの物流の全体最適化(ロジスティクスプラットフォーマー)、顧客の声を聞き消費行動を把握することでの供給プロセスの効率化(ユーザープラットフォーマー)の3つがある。小野塚氏はこのうちマニュファクチャリングプラットフォーマーの例として、Siemensが提供している「MindSphere(マインドスフィア)」を例として紹介した。
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