元工作機械エンジニアが見た、JIMTOF2024:JIMTOF 2024(3/3 ページ)
元工作機械エンジニアがJIMTOF2024(第32回日本国際工作機械見本市)を振り返ります。
加工技術の動向
出展した加工機メーカー全てが自社の持ち味、特長を生かして開発した加工技術を搭載した商品で訴求しているのだが、残念ながら、その全てをリサーチし紹介することは困難である。筆者が見て歩きの中で注目した技術を紹介することとする。
摩擦撹拌接合(FSW)
先回2022年(第31回)でも展示があったが、ホーコスにて、摩擦撹拌接合技術と切削加工の複合加工機、マシニングセンタ「NS70 FSW」が関心を集めていた。芝浦機械でも、サンプル展示があり、今後、EVで多用されるアルミ合金部品加工、異種金属接合部品加工に有効であろう。
超音波加工
同じく、ホーコスの超音波加工マシニングセンタ「NSU20」を紹介する。JIMTOF会場では珍しく非金属材料である、ガラス、セラミックス、CFRP(炭素繊維強化樹脂)などの硬くて脆い高脆材料を対象とした加工方法の提案である。超音波振動子を主軸に内蔵することで、振動子を大型化でき、高出力加工を実現している。
アルミ合金切削加工
大型加工機と同様、小型加工機でもEVの部品や部品軽量化によるアルミ合金の切削加工の訴求が目についた。
ブラザー工業では、立形、横形、5軸加工機の他に、デバリングセンタと称したバリ取り加工機を展示していた。小物アルミ鋳物の切削加工で生じたバリ取りに関して、複雑なプログラミング操作を不要としたロボット同様のティーチング操作で簡素化していた。
豊和工業では、「これからの自動車部品加工に対する最適解」と銘打ち「CONCEPT MODEL」として、横形#30のマシニングセンタの展示を行っていた。『止まらないマシン』として、「切粉」に関する4つのポイントを提案していた。
DX化、デジタル化、AI技術の動向
Industry 4.0の流れで、各社独自のIoT技術を搭載し、一時期の「つながる」ということが当たり前となって久しい。2022年(第31回)から、収集した各種センサー情報を分析、解析し、加工に補正を加えるデータサイエンス関連の技術などが多数紹介されてきた。
今回は、これをさらに一歩進めたAI(人工知能)技術も出品されていたので簡単に紹介する。
データサイエンス技術の具現化
工作機械では無視できない熱変位やびびり振動などは、温度センサー、加速度センサーを使用して状態変化を認識することが可能であろう。
そのデータサイエンス技術を自社商品での実証技術として提案しているのが、ドイツのPCベースのCNCメーカー、ベッコフオートメーションである。
ブース内では、PCベースのCNCを用いた切削加工のモニタリング研究事例などが発表された。
また、実装を検討する工作機械メーカー技術者や現場の実加工で悩む生産技術者の質問に対して、アプリケーション技術者がデモ機を使って実証プロセスを丁寧に説明するなど、常時、エンジニア同士の熱い情報交換が行われていたのが印象的であった。
研削加工のAI技術
研削加工では、その要求精度から加工物脱着の再現性が乏しいため、加工が良品で完了する確証が得られるまでは加工物を取り外したくない。熟練作業者は、その確証を、火花を見て、研削音を聞いて、目と耳で判断している。
ナガセインテグレックスでは、超精密門型成形平面研削盤「SGX-126SLS2-Zero3」に搭載の「NPXスピンドル」において、研削加工中の研削抵抗(主分力と背分力)をリアルタイムで検出しながら、AI分析にて加工している加工精度(真直度および平面度)の予測値を表示していた。
汎用性の追求
今回のJIMTOFではアカデミックエリアと称した、工作機械業界、モノづくり業界に学生を呼び込むイベントも催された。その中に、汎用旋盤の体験コーナーが設けられたが、学生よりもむしろ年長者の関心が高く、手に触れて懐かしんでいる光景が見られた。
最新の2023年「工作機械生産高統計指標」では、NC化率が93.1%となり、生産されるほとんどの工作機械がNC機に代わった中、汎用機の良さを追求した出品があったので紹介する。
ジェイテクトの、CNC円筒研削盤「G3P100L」である。社内の自動車事業で手掛けている「ステアバイワイヤハンドル」技術を工作機械の送りハンドルに応用した加工機械である。無機質な手動パルスハンドル操作とは異なり、工具(砥石)と加工物が接触する感触を味わえる。
おわりに
出展者も多く、会期の6日間を終日フルに使ったとしても、広大なエリアを全ては回り切れない規模であった。今回、訪問できなかったブースも多く、また、紙面の都合もあり、注目された新技術や新商品を全て紹介できないが、また、別の機会に紹介していきたい。
冒頭述べたように、JIMTOFは、加工技術に関するモノづくりの次代への提唱の場である。今回の出品技術が将来のモノづくりの基盤技術となることを大いに期待している。
著者紹介
高桑 俊也(たかくわ としや)
高桑MT技術士事務所 代表
1959年名古屋市生まれ。大学卒業後、工作機械メーカーに入社し、主に工作機械の商品開発、設計業務に従事。機械、制御、ソフトの三位一体設計による機械本体構造、CNC制御技術、加工ソフトウェアを融合させた工作機械開発を実践してきた。定年退職後、技術コンサルタント業を起業し、モノづくりに携わる企業の課題解決に尽力している。加えて現在は、中小企業支援公的機関にて、モノづくり企業の経営相談、技術相談を通じて、販路開拓、価格転嫁、現場改善、社内教育などを支援している。
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