NVIDIAのファンCEOが断言「ロボットAI革命をリードするのは日本がふさわしい」:人工知能ニュース(2/2 ページ)
NVIDIAが東京都内で開催したユーザー向けイベント「NVIDIA AI Summit Japan」の基調講演にCEOのジェンスン・フアン氏が登壇。生成AIの登場によって「AIエージェント」と「フィジカルAI」という2つのAIアプリケーションが普遍的に利用されるようになり、特にフィジカルAIによるロボットの進化は日本がリードすべきと訴えた。
「AIエージェント」と「フィジカルAI」
ファン氏は、生成AIの登場などによって進化を続けるAIアプリケーションの有用な事例として「AIエージェント」と「フィジカルAI」を挙げた。
AIエージェントは、デジタルAIワーカーと呼び変えることもできるが、基本的にはこれまで人が行ってきた業務の多くを担ってくれる存在である。NVIDIAは、AIエージェントの処理に必要なトークンを発行するだけでなく、生成AIモデルの開発と展開を支援するフレームワークである「NVIDIA NeMo」なども提供している。NVIDIAは、Service NowなどのパートナーとともにAIエージェントを共同開発しており、今後これらのパートナーのソリューションを利用する際には、AIエージェントが利用できるようになっていく。
また、NVIDIAはAIエージェントのBlueprint(青写真、レファレンス)となるデジタルヒューマンのJamesを公開している。「AIエージェントは人の業務の50%をこなせるようになるだろう。これは人の50%と取って代わるのではなく、AIが仕事の100%の内50%分を担うことで、より生産性を高めてくれると考えるべきだ。AIが人の仕事を奪うのではなく、AIを活用する人が仕事を得ていくのであり、だからこそできるだけ早くAIを使い始めるべきだろう」(フアン氏)。
一方のフィジカルAIは、産業用ロボットのように限定環境で利用されているロボットの適用範囲をさらに拡大する。ファン氏は「日本メーカーは世界の産業用ロボットのシェアで50%を占めている。しかし、この産業用ロボットの市場は大きくは成長していない。市場を大きく成長させるためには、もっと柔軟でさまざまな環境への適応が可能なロボットが必要となる。その鍵になるのがフィジカルAIだ」と述べる。
フィジカルAIの実現には3つのコンピュータが必要になる。1つ目は、ロボットに組み込むAIモデルの学習を行うコンピュータだ。2つ目は、学習したAIモデルが実環境で正しく振る舞うことができるのかのテストを行うためのシミュレーションだ。NVIDIAは、デジタルツインに基づくこのシミュレーション環境となる「NVIDIA Omniverse」を提供している。そして、3つ目は、Omniverseでの検証を完了したAIモデルをロボットの中で効率良く実行するためのエッジAIシステムだ。
このフィジカルAIは、生成AIと高い演算処理能力を持つBlackwellの組み合わせによって、人型ロボットの実現が可能なレベルまで進化できる状況になっている。NVIDIAは、汎用人型ロボットの開発を可能にするプロジェクト「GR00T(読み方:グルート)」を進めているが、2024年11月には人型ロボットのAIモデル学習のワークフローを発表している。ファン氏は講演の中で、人の動きを生成して効率的に学習を行うための「GR00T-Mimic」や、Omniverseの中でロボットの周辺にさまざまな物体や環境を生成AIで作り出して学習する「GR00T-Gem」、人型ロボットの全身のバランス制御を行う「GR00T-Control」などを紹介した。
フアン氏は「フィジカルAIによるロボットのAI革命をリードする国として、ロボットが大好きな日本こそが最もふさわしい。最新のAIによるブレークスルーと、日本が持つ最先端のメカトロニクス技術を組み合わせることで、最大のチャンスをつかむことができる。NVIDIAとしてぜひ協力していきたい」と力を込める。
フアン氏「新しい時代の始まり」、孫氏「リセット」
NVIDIAは今回の基調講演に併せて、ソフトバンクが5Gネットワークへの導入を計画しているAI-RAN(無線アクセスネットワーク)のインフラとして、世界に先駆けてBlackwellベースのNVIDIA DGX SuperPODを導入することを発表した。AI処理性能は25E(エクサ)flopsで、日本で最大規模のAIスーパーコンピュータとなる。また、AI-RANには、セルラーネットワーク向けの最適化プラットフォームである「NVIDIA AI Aerial」も採用する予定だ。
講演の後半でフアン氏は、ソフトバンクのグループトップを務める孫氏との対談を行った。孫氏は、ソフトバンクグループが国内に導入を進めているAIインフラのリソースを研究者や学生などに提供し、スタートアップの起業などに役立てたい意向を示した。
また、ソフトウェア産業が世界の成長をけん引してきた直近30年間において、製造業を中心とする日本の国内産業はモノづくりを重視する一方で、ソフトウェアを軽視したことで、欧米や中国に後れを取ったことを指摘した。
フアン氏がフィジカルAIの例で挙げたように、ロボット産業にとってAIの活用は新たな成長の機会となる。フアン氏がこれを「新しい時代の始まり」と呼び、孫氏は「リセットだ」と応じた。
孫氏は、PCやスマートフォンと同様に1人1人にAIエージェントが行き渡る未来を見据えてソブリンAI(国家独自のAI)の重要性についても言及した。「そういったAIエージェントは、その国の文化や慣習、知識を反映したものであるべきで、基になるデータはその国に帰属しなければならない。そのためのソブリンAIのデータセンターであり、国家としてのデータセキュリティにも関わってくる」と述べている。
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