「NVIDIA Omniverse」で製造業の3Dワークフローはどう変わるのか?:セミナーレポート(1/2 ページ)
デル・テクノロジーズ主催セミナー「製造業デジタルツイン最前線 - NVIDIA Omniverse導入で進む産業メタバース」の講演レポートをお届けする。
デル・テクノロジーズは2024年4月23日、顧客およびパートナー企業向けセミナー「製造業デジタルツイン最前線 - NVIDIA Omniverse導入で進む産業メタバース」を開催した。本稿ではその一部をダイジェストで紹介する。
産業向けデジタルツイン/メタバースを支える安定環境を提供
セミナーの冒頭、デル・テクノロジーズ クライアント・ソリューションズ統括本部 アウトサイドスペシャリスト 部長の中島章氏は「VR(仮想現実)をはじめとするXR技術はエンターテインメント領域だけでなく、危険な状況を再現して仮想環境で体験/学習したり、実機がない状態でメンテナンス作業のトレーニングを行ったりなどの業務分野での活用検討や実導入が進んでいる。さらに現在、現実空間の物体や状況を仮想空間上で再現する『デジタルツイン』に注目が集まっており、これを業務で活用していこうという動きが非常に盛り上がっている」と述べ、同セミナーを企画した背景を説明する。
また、中島氏は総務省が発行する「令和5年版 情報通信白書」を引用し、製造業をはじめとする多様な分野でのシミュレーションや最適化、リスク評価などでデジタルツインの活用が進みつつあること、関連する市場規模も今後大きく成長する見通しであることを紹介。さらに、IDC Japanのレポート「2023年 国内デジタルツインおよび産業用メタバース市場動向」にも触れ、産業用途のデジタルツインやメタバースの発展のカギは「3D CAD」「IoT(モノのインターネット)」「XR」の3つだとし、中でもXRはデジタルツインやメタバースといった仮想空間に“人”を取り込むためのキーテクノロジーであることを訴える。
そして、働き方改革や生産性向上、CO2排出量の削減などのメリットをもたらす産業用途のデジタルツインやメタバースの実現には、その仕組みを支える安定環境が不可欠であり、中島氏は「それこそが『NVIDIA Omniverse』と『Dell Precision ワークステーション』だ」とアピールする。デル・テクノロジーズは、Omniverseの導入支援を行う国内団体「NVIDIA Omniverse Partner Council Japan」の結成当時からの参画メンバーであり、「デジタルツイン/メタバースへの期待が高まる中、われわれはハードウェアベンダーとして、それらを安定稼働させられる環境を提供できるよう日々努力している」(中島氏)という。
OpenUSDによる3Dワークフローの変革
エヌビディア シニア・ビジネスデベロップメント・マネージャー(RTX/Omniverse)の中嶋雅浩氏は「VRの価値が変わる 産業メタバースを支えるOpenUSDと生成AI」と題し、「OpenUSD(Open Universal Scene Description)」による3Dワークフローの変革について説明した。
Omniverseは、仮想コラボレーションとリアルタイムシミュレーションのためのオープンプラットフォームとして位置付けられている。別々の場所にいる開発プロジェクトのメンバーとそれぞれが使用する各種3Dツールおよびデータをつなげ、SSOT(Single Source of Truth/信頼できる唯一の情報源)でのリアルタイムコラボレーション環境を実現。さらに、リアルタイムレイトレーシングによるフォトリアリスティックなレンダリングを可能とし、現実世界を精緻に再現して、物理的に正確なシミュレーション環境を提供する。「一般的なVR体験とは異なり、Omniverseは感覚に響いてくるような視覚体験が得られる。設計レビューなどにおいて、これまでのVRでは難しかった“仮想空間での意思決定”が可能となる。また、Omniverseで工場のデジタルツイン(バーチャルファクトリー)を構築することで、生産ライン変更に伴う現場合わせ(調整作業)などを大幅に効率化できる」(中嶋氏)。
3DツールとデータをOmniverseにつなげる役目を果たしているのがOpenUSDだ。「現在、NVIDIAはOpenUSDを強力に推進しており、Pixar Animation Studios(以下、ピクサー)やAdobe、Apple、Autodeskといった『AOUSD(Alliance for OpenUSD)』メンバーとともに、3Dデータの国際標準規格化を目指している」(中嶋氏)。OpenUSDはピクサーが開発したファイル形式「USD(Universal Scene Description)」の拡張規格であり、データレイヤー構造によって、他のユーザーの作業に影響を与えることのない、非破壊的な3Dワークフロー(非同期での共同作業)を可能にする。なお、OmniverseはOpenUSDに変換されたデータを取り込むのではなく、プラットフォームから参照する形で利用することでSSOTを実現している。
そして、Omniverseを用いた産業メタバースを構築するには、視野を埋め尽くすほどの膨大なデータが必要であり、そのカギを握るのがOpenUSDと生成AIの活用だという。
生成AIの活用イメージとしては、例えば、バーチャルファクトリーの構築に必要な背景アセットや照明環境などのデータを、クリエイターが専用ソフトウェアで一から作るのではなく、プロンプトを介して効率的にAIで生み出すといった利用が考えられるという。続けて、中嶋氏はOmniverseに「Copilot」を組み込み、他の3Dツールと連携させるイメージを紹介。「バーチャルファクトリーの構築をする際、よく直面するのが、レイアウト、建屋、設備、照明、地形など周辺環境を含めた全ての3Dデータを用意できないという問題だ。手元にないデータを手間なく用意する手段として生成AIの活用が期待できる。Copilotとの連携もそうした事例の一つといえる」(中嶋氏)。
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