産業向けで広がる「Omniverse」の世界、API対応でデジタルツインの構築が容易に:メカ設計ニュース
NVIDIAは「GTC 2024」において、3Dデザインコラボレーション/リアルタイムシミュレーション基盤のクラウドサービス「NVIDIA Omniverse Cloud」で、製造業向けをはじめとするさまざまなツールとの連携が容易になるAPI群「NVIDIA Omniverse Cloud APIs」を発表した。
NVIDIAは2024年3月18日(現地時間)、米国サンノゼで開催中のユーザーイベント「GTC(GPU Technology Conference) 2024」(開催期間:同年3月17〜21日)の基調講演において、3Dデザインコラボレーション/リアルタイムシミュレーション基盤「NVIDIA Omniverse(以下、Omniverse)」のクラウドサービス「NVIDIA Omniverse Cloud(以下、Omniverse Cloud)」で、製造業向けをはじめとするさまざまなツールとの連携が容易になるAPI群「NVIDIA Omniverse Cloud APIs(以下、Omniverse Cloud APIs)」を発表した。Ansys、Cadence Design Systems、Dassault Systems、Hexagon、Microsoft、Rockwell Automation、Siemens、Trimbleといった有力ツールベンダーがパートナーとして参画することを表明している。
デジタルツインのプラットフォームを目指すOmniverseにおいて、3Dデータの標準フォーマットになっているのがUSD(Universal Scene Description)だ。現在は、オープンソース化されたことによりOpenUSDとなっている。OmniverseやOmniverse Cloudは、このOpenUSD形式の3Dデータについて、NVIDIAのレイトレーシング対応のグラフィックス技術である「RTX」などを用いて高精細かつリアルタイムに表示できることを最大の特徴としている。
今回発表したOmniverse Cloud APIsは、Omniverse Cloud上にあるOpenUSD形式のデータを連携対象のツール上で利用可能にするAPI群となる。これまでのOmniverseやOmniverse Cloudは、OpenUSDを経由して他のツールで作製した3DデータをOmniverseやOmniverse Cloud上で表示することが主な用途だったが、Omniverse Cloud APIsによって高精細かつリアルタイムな3D表示ができるOmniverse Cloudの特徴をそのまま連携対象ツール上に持ち込めることになる。ユーザーが自身の環境で構築しているデジタルツインの空間内に、Omniverseの技術を簡単に持ち込めることを意味している。
Omniverse Cloud APIsが提供するAPIは5つある。RTXによるレイトレーシング対応のレンダリング表示を可能にする「USD Render」、OpenUSDデータの変更や操作を行うための「USD Write」、3Dデータを動的に利用するためのシーンやシナリオを管理する「USD Query」、OpenUSDデータの変更を追跡し反映する「USD Notify」、Omniverse Cloudを経由してユーザーやツール間をつないでのコラボレーションを可能にする「Omniverse Channel」だ。
GTC 2024の展示会場では、パートナーとして参画するCadenceとSiemensの事例が紹介された。Cadenceは、カーボンニュートラル対応が強く求められているデータセンターの構築向けに同社のデジタルツインソリューションである「Reality Digital Twin Platform」を提案している。Reality Digital Twin PlatformとOmniverse Cloud APIsの組み合わせによって、データセンター構築の設計とシミュレーションのワークフローを30倍に高速化できるようになったとする。
Cadenceの事例。「Reality Digital Twin Platform」と「Omniverse Cloud APIs」の組み合わせで、同社の最新GPUである「GB200」を用いたAIデータセンターの構築の設計を行う様子[クリックで拡大]
Siemensは、統合デジタルプラットフォーム「Siemens Xcelerator」とOmniverseの融合を進めるなどNVIDIAとの関係性が深いパートナー企業だ。Omniverse Cloud APIsについては、クラウドベースPLMである「Teamcenter X」を皮切りに導入を進めている所だ。Omniverse Cloud APIsを用いたTeamcenter Xの事例としては、HD Hyundaiが開発している700万点以上の部品から成るタンカーの3Dデータをレイトレーシングに基づく高精細な表示を自在に行ったり、天然ガスの注入やスクリュー動作における流体シミュレーションを「STAR CCM+」で実行できたりすることを示した。
Siemensの事例。「Teamcenter X」と「NVIDIA Omniverse Cloud APIs」を連携させた上で、「STAR CCM+」を用いたタンカーのスクリューの流体シミュレーションを行っている[クリックで拡大]
なお、Omniverse Cloud APIsの提供は、Microsoftのクラウド「Azure」上で展開されているOmniverse Cloudから先行する形で2024年後半を予定している。
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