シーメンスが目指すリアルとデジタルの融合、ChatGPTも積極活用:製造ITニュース
シーメンスデジタルインダストリーズソフトウェア プレジデント兼CEOのトニー・ヘミルガン(Tony Hemmelgarn)氏が来日し、「産業メタバース」「産業AI」「サステナビリティ」に関する取り組みや事例を紹介した。
シーメンスデジタルインダストリーズソフトウェアは2023年8月30日、東京都内で会見を開き、来日した同社 プレジデント兼CEOのトニー・ヘミルガン(Tony Hemmelgarn)氏が事業戦略について説明した。「設計と製造に関する的確な判断を下すためには、より精緻なバーチャルなデジタルモデルをリアルと融合することが必要になる。産業ソフトウェアとオートメーションのリーダーであるシーメンスは数十億米ドルを投資してリアルとデジタルの融合を可能とする統合デジタルプラットフォーム『Siemens Xcelerator』を開発しており、顧客を支えていく」と語る。
ヘミルガン氏は、このリアルとデジタルの融合に関わる注目すべきトレンドである産業メタバース、産業AI(人工知能)、サステナビリティに関する取り組みや事例を紹介した。産業メタバースでは、NVIDIA、AWS(Amazon Web Services)との提携によって、Siemens XceleratorとNVIDIAのコラボレーションプラットフォーム「Omniverse」の統合を進めており、2023年末には最新の成果が発表される予定だ。また、ノルウェーのフレイル(FREYR Battery)が計画している半固体リチウムイオン電池の大規模工場の構築において、Siemens Xceleratorを全面的に採用するとともに、NVIDIA、AWSとの提携に基づく産業メタバースの構築によって早期の工場立ち上げにつなげていく方針だ。
産業AIでは、生成AIである「ChatGPT」の活用事例を紹介した。マイクロソフトのコラボレーションツール「Teams」に、Siemens XceleratorのPLMツール「Teamcenter」を組み込んだソリューションは、工場の現場で発生したさまざまな問題に即時に対応するものだが、さまざまな場面でChatGPTが活用されている。グローバルで工場を展開する製造業での利用を想定しており、現場側と問題への対処を指示するバックヤード側で使用する言語が異なる場合に、ChatGPTが即座に翻訳してスムーズにコミュニケーションを取れるようにする。さらに、バックヤード側での対応を検討する際にはTeamcenterで管理している社内データからChatGPTが方針を提案するとともに、ソフトウェアの変更が必要な場合にもChatGPTが自動でソフトウェアを生成する。このソフトウェアはTeamcenterでバージョン管理された上で現場側に送られ、問題対処としてはこのソフトウェアを組み込めばよい。このソリューションは2023年秋にリリースが予定されている。
サステナビリティについては「環境に与えるインパクトのうち80%はコンセプトの段階で決まるため、後付けで対処することは難しい。そこで重要になるのがシミュレーションだ」(ヘミルガン氏)という。代表的な事例として、EV(電気自動車)の開発と生産を手掛けるEDAG Groupが、バッテリーパックの冷却システムの分岐回路について、ジェネレーティブデザインと3Dプリントによって圧力損失を40%削減するなどの最適化を果たした成果を紹介した。
「2025年の崖」までの2年間で日本のクラウド化、SaaS化は一気に進む
シーメンスデジタルインダストリーズソフトウェア グローバルセールス、カスタマーサクセス担当 エグゼクティブ・バイスプレジデントのロバート・ジョーンズ(Robert Jones)氏は「2021年に打ち出したクラウド移行の事業戦略は順調に進んでいる。2025年にARR(年間経常収益)の40%をクラウドベースにするという計画を上回っており、既に年間のクラウドARRで10億ユーロを達成できている。そして、このクラウドARRの74%は中堅中小企業からの受注であり、これは当社にとって従来にない新たな機会が得られていることを示している」と強調する。
また、各産業分野での採用実績として、EVを中心としたバッテリーセルサプライヤーのトップ10社の内8社、米国の航空宇宙防衛分野の全て、自動車メーカーのトップ23社とEVメーカーのトップ20社の全て、半導体メーカーのトップ50社全て、家電メーカーのトップ10社の内9社がSiemens Xceleratorを採用しているという。
シーメンス日本法人 代表取締役社長兼CEOの堀田邦彦氏は「世界全体でEV販売台数が拡大する中で唯一伸び悩むなど日本市場は課題も多いが、経済産業省が2018年のDX(デジタルトランスフォーメーション)レポートで指摘した『2025年の崖』までの2年間でクラウド化、SaaS化は一気に進むと見ている。3D CADでは、かつての自社開発から、グローバル化に合わせや汎用ツールの採用とカスタマイズを経て、現在は他システムとの連携を視野にクラウド、SaaSの活用が進み始めている。コロナ禍を経てこの流れは一気に加速して行くだろう」と述べている。
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