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39mの超巨大望遠鏡をデジタルツインで完全管理 〜世界最大天文台が目指す未来〜メカ設計インタビュー(3/3 ページ)

European Southern Observatory(ESO:欧州南天天文台)が、チリのアタカマ砂漠で建設中の世界最大の光学望遠鏡「ELT(Extremely Large Telescope)」。nm単位の精度が要求されるこの巨大プロジェクトでは、建物全体のデジタルツイン化を視野に建設が進められているという。プロジェクト担当者に話を聞いた。

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――どのようなアプローチで建物全体とその背後にある全ての機械系統をデジタルツインにしているのでしょうか。

ヤーコブ氏 まず小さなモデルから始めて、それらの管理方法を理解し、その後拡張していくという段階的なアプローチをとっています。例えば、チリの開発チームは主鏡の1セグメントのモデルを使って、デジタルツイン内での機能検証を行っています。これを798枚全てのセグメントに拡張する前に、システムの動作を十分に検証する必要があります。

 デジタルツイン構築の最終的な目標は、予測保守機能を含む望遠鏡全体の制御です。システムは変化を検出し、問題が発生する前にベアリングの交換などの保守作業を推奨できるようになる予定です。

2024年現在、ドームの鉄骨構造は完成している。観測開始は2028年を予定しているという
2024年現在、ドームの鉄骨構造は完成している。観測開始は2028年を予定しているという[クリックで拡大](写真提供:B. Hausler/ESO)

AIとデジタルツインの融合――その期待と懸念

――最後に、将来における生成AI(人工知能)などの新技術の活用について、展望を聞かせてください。

ライディングス氏 デジタルツインとAIの組み合わせには大きな可能性を感じています。望遠鏡のシステムは非常に複雑で、従来の手動での監視は現実的ではありません。そのため、バックグラウンドで動作するAIによる自動データ分析が不可欠となります。

 具体的には、センサーデータのリアルタイム分析による異常検知を実現し、パターン認識技術を活用して故障の予兆を検知することを計画しています。また、複数のセンサーから得られるデータの相関を分析することで、問題の根本原因をより正確に特定することが可能になります。さらに、AIを活用して部品の寿命を予測し、最適なメンテナンスのタイミングを提案する予測保守システムの構築も目指しています。これらの技術を統合することで、望遠鏡全体の運用パラメータを自動的に最適化し、より効率的な運用を実現したいと考えています。

ヤーコブ氏 設計/製造工程においても、AI活用の可能性を積極的に検討しています。特に設計段階では、材料選択の最適化や部品選択の効率化、そして設計規格の自動確認などにAIを活用することで、設計プロセスの大幅な効率化が期待できます。また、製造プロセスにおいても、品質管理の自動化や製造パラメータの最適化、不良予測と防止などへの応用を検討しています。

 ただし、メカニカルエンジニア統括の立場としては、慎重なアプローチをとる必要があると考えています。現在、私たちは「Fusion Manage」などの基盤システムの導入を進めており、チーム全体で協調的な作業方法を確立する段階にあります。そのため、新技術の導入によってチームに過度な負担をかけることは避けたいと考えています。

 当面は、材料データのプロパティ入力の自動化など、明確なメリットが見込める限定的な領域から段階的に導入を進めていく方針です。

取材に応じたESO メカニカルエンジニア統括のゲルド・ヤーコブ氏(右)と、ESO メカニカルエンジニアのロバート・ライディングス氏(左)
取材に応じたESO メカニカルエンジニア統括のゲルド・ヤーコブ氏(右)と、ESO メカニカルエンジニアのロバート・ライディングス氏(左)

(取材協力:オートデスク)

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