生成AIでスケッチから3Dモデルを――Autodeskが推進する研究開発プロジェクトに迫る:メカ設計インタビュー(1/2 ページ)
ツールベンダーという立ち位置から戦略を転換し、プラットフォームカンパニーへと舵を切るAutodesk。プラットフォームの強化とともに、注力しているのが生成AIを活用した研究開発だ。新たなデータモデルAPIの可能性と併せて、その狙いやビジョンを責任者に聞いた。
今、製造業界ではOT系システムとIT系システムを単一のプラットフォーム上で管理する動きが加速している。待ったなしのDX(デジタルトランスフォーメーション)や産業用IoT(モノのインターネット)の普及などを背景に、OTとITのデータを単一プラットフォーム上で共有し、ワークフローやプロセスをシームレスに連携させることで、生産性の向上や意思決定の迅速化、品質管理の強化などを実現するのが狙いだ。
この潮流に対応するため、Autodesk(オートデスク)は2022年に「Autodesk Platform Services」(Autodesk プラットフォーム)を発表。従来の個別ツールの提供から、統合プラットフォームを提供するビジネスモデルへと戦略を転換した。その中核を担うのが「プラットフォームサービス」「データモデル」「エンドユーザー」という3層構造から成るプラットフォームだ。
そして、このプラットフォームをベースに、製造分野向けの「Autodesk Fusion」、建築/エンジニアリング/建設/運用(AECO)向けの「Autodesk Forma」、メディア&エンターテインメント(M&E)向けの「Autodesk Flow」という3つのインダストリークラウドを展開している。これらのインダストリークラウドは共通データモデルを基盤としており、各業界向けツール間のシームレスな連携や、オープンなエコシステムでのソリューション構築を可能にする。
さらに、オートデスクはこのプラットフォームの競争力を高める技術として、新たな生成AI(人工知能)の開発にも注力している。米Autodesk マーケット&産業開発 設計・製造担当シニアディレクターのDetlev Reicheneder(デトレフ・ライヒネーダー)氏は、「製造業の未来はプラットフォームにある。そして、その“核”となる技術要素が生成AIだ」と指摘する。
では、オートデスクは今後、生成AIをどのように発展させ、プラットフォーム戦略を強化していくのか。2024年10月15〜17日(現地時間)の3日間、米国カリフォルニア州サンディエゴで開催された「Autodesk University 2024」(以下、AU 2024)で話を聞いた。
3Dモデル生成AI「Bernini」 概念実証から商用化へ克服すべき課題
――今回発表した「Project Bernini」(以下、ベルニーニ)について伺います。AU 2024の基調講演では製造分野における生成AIを「設計プロセスを高速化するエンジン」と位置付け、機能強化を図る姿勢を打ち出しました。その中でベルニーニはどのような役割を担うのでしょうか。
ライヒネーダー氏 最初に明確にしておくが、ベルニーニは新しい生成AI技術の概念実証プロジェクトであり、現時点で商用化のめどが立っているものではない。ベルニーニの主な目的は、生成AIの可能性を探究し、顧客のニーズを理解することだ。生成AIは現在、ハイプサイクルの頂点にあると認識している。そのため、将来「顧客は生成AIに対して何を望み、生成AIがどのような価値をもたらすか」を見極める必要がある。
オートデスクはこれまでに複数の生成AI技術を実用化しており、10年以上の研究成果として、多くの顧客が利用している。自動図面生成や自動工作機械制御プログラム(NCコード)生成などがその一例だ。これら既存の生成AI技術の強化は継続していく。もちろん、将来的には顧客のニーズと技術の成熟度に応じて、ベルニーニを商業製品に組み込む可能性はある。
ベルニーニの特徴的な機能は、指示や簡単なスケッチから3Dモデルを生成できることだ。2D画像、テキスト、ボクセル、点群データなど、さまざまな入力から実用的な3D形状を迅速に生成する。例えば、「椅子」と入力するだけで、3Dモデルがすぐに生成される。ただし、これを商用技術として提供するには、多くの課題を克服しなければならない。
――それはどのような課題でしょうか。
ライヒネーダー氏 課題は大きく技術面、実用面、ビジネス面の3つに分類できる。
技術面で最も困難なのは、精密な3Dモデルの生成だ。2D図面と異なり、3Dモデルにはエッジ、曲線、フィレット、ナット、ボルトなどの複雑な要素があり、これらを正確に生成することが求められる。また、3Dモデルにはミクロン単位の精度が求められる。公差、嵌合、パラメトリックな性質など、論理的な情報も含めなければならない。
実用面では、生成されたモデルの品質と再利用性が課題となる。単に見た目の良い形状を生成するだけでは不十分だ。再エンジニアリングに多大な時間を要するようでは実用的でない。
そして、ビジネス面での課題が最も本質的であり、正解を見つけるのが難しい。それは「顧客は生成AIによる設計アルゴリズムをどのように活用し、何を実現したいのか」という問いだ。単なる設計のインスピレーションを求めているのか、あるいは途中まで設計したモデルの完成を求めているのか。それによって提供する機能は異なる。
――ベルニーニの学習にはどのようなデータを利用していますか。
ライヒネーダー氏 インターネット上の公開ライセンスのデータとデータモデルのみを使用しており、特定企業(顧客)のデータは使用していない。これが現時点で非商用の概念実証にとどまっている理由の1つでもある。商用技術として提供する場合、顧客は自社のデータでベルニーニを学習させる必要がある。しかし、ここでも課題がある。それは「顧客企業が十分な学習データを保持しているか」という点だ。
こうした課題を解決するため、オートデスクは複数の取り組みを進めている。その一つが、プラットフォームの整備だ。プラットフォームには3Dモデルの知識データを格納し、必要に応じて利用できる環境を整えている。
具体例として「椅子」の場合を考えてみよう。まず、AIは公開データを用いて基本的な知識を学習する。これには「椅子とは何か」という基本的な定義、「座る」「支える」といった必要な機能要件、そして世の中に存在するさまざまな椅子の種類やバリエーションが含まれる。
次に、企業独自の要件に対応するため、この基本知識を持つAIに追加学習を行う。各企業の設計意図を反映し、その企業固有の要件に合った3Dモデルを生成できるようにする。この追加学習に必要なデータをいかに効率的に収集し、活用するかという点も今後の大きな課題だ。われわれがプラットフォームへの投資を惜しまず、機能強化に努めているのもこのためだ。
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