ブラックホールの姿を撮影するために、へら絞りでパラボラアンテナを作る:ブラックホール撮像とへら絞り(1)(1/2 ページ)
誰も成功したことがないブラックホールの撮影に挑戦したい――その撮影に使うのはへら絞り(※)製のパラボラアンテナだ。国立天文台 電波研究部 助教の三好真氏は、安価な加工法として検討をはじめたへら絞りが、思いのほか加工精度がよく、かつアンテナ精度向上にもつながりそうだと気付いたという。現在、へら絞り加工の精度について詳しく研究するため、クラウドファンディングにも挑戦中だ。三好氏に、へら絞りに出会った経緯や、本格的に研究しようという考えに至った理由について聞いた。
誰も成功したことがないブラックホールの撮影に挑戦したい――その撮影に使うのはへら絞り(※)製のパラボラアンテナだ。国立天文台 電波研究部 助教の三好真氏は、安価な加工法として検討をはじめたへら絞りが、思いのほか加工精度がよく、かつアンテナ精度向上にもつながりそうだと気付いたという。現在、へら絞り加工の精度について詳しく研究するため、クラウドファンディングにも挑戦中だ。三好氏に、へら絞りに出会った経緯や、本格的に研究しようという考えに至った理由について聞いた。
第1回と2回では、三好氏の話を紹介する。第3回では、アンテナを作成した加工技術者、北嶋絞製作所の半澤実氏が登場する。
ブラックホールって見えるの?
ブラックホールは何でも吸い込む穴のように表現されることもあるが、れっきとした星の仲間だ。ブラックホールの特徴は、非常に重いことにより発生する桁違いの重力だといえる。大きな重力は何でも吸い込み、光すら抜け出せないほどだ。光を発することがないため直接見ることはできないといわれる。その真っ黒の星をどうやって見るのだろうか。
ブラックホールがどのように見えるのかをシミュレーションした画像。事象の地平面が生みだすブラックホールシャドーが観察されると考えられる。映画「インターステラー」などで似たような映像を見た人もいるだろう。(シミュレーション:高橋労太氏)
三好氏は「ブラックホールを直接見ることはできませんが、ブラックホールに引き付けられたちりなどは、ブラックホールに吸い込まれる前に周囲を回りながら熱を持って明るく光ります。私たちが観察しようとしているのは、この電磁波を発するちりを背景に浮かび上がる『ブラックホールシャドー』です」と話す。
右の図は、シミュレーションによって描かれたブラックホールの想像図だ。土星のリングのように、ちりはブラックホールの回りに集まって回転する。奥側にあるはずのリングが上方に広がって見えるのは、ブラックホールの強い重力が光を曲げているためだ。
ブラックホールはどのくらいの大きさ?
「見つかっているブラックホールの中で最も大きく見えると考えられるのは、銀河系の中心にある『SugA*(サジタリウスエースター)』です。このブラックホールをターゲットにしています。シルエットの大きさは視直径で50マイクロ秒角、月の見かけの大きさの3600万分の1と見積もられています」(三好氏)。
ブラックホールの回りのちりが電磁波を発生させるといっても、その波長はさまざまだ。その中で、三好氏が狙うのは電波による撮像である。電波望遠鏡はは、現在のところ望遠鏡の中で分解能が最も高い。通常は望遠鏡の分解能はレンズが大きいほど高くなる。そのため大きく作ればよいが、物理的に限界がある。
一方、望遠鏡を一定の距離だけ離して設置して連携させることができれば、仮想的に望遠鏡同士の距離が望遠鏡のレンズのサイズとみなせるのだ。
電波の望遠鏡は、遠く離れていても連携して観測することが技術的に可能だ。そのため、「複数の望遠鏡を地球上に展開することで、がんばれば1万キロメートル程度の仮想望遠鏡をつくることができます。この時の分解能は理論上で10マイクロ秒角くらいは出ます」(三好氏)。
電波望遠鏡はレンズの代わりにパラボラアンテナを使って電波を集める。高い分解能を得るためには、面精度のよいパラボラ面が必要だ。そんな中、提案されたのが、へら絞り加工によるアンテナだったという。へら絞り加工は、型に金属板を押し当て、型と金属板を同時に回転させながら、専用のへらを押し付けることで金属板を目的の形に成形する加工法だ(詳細は後編)。切削などと比べて安価で作ることができる。また軽いため、持ち運びも可能だ。いろんな場所で観測すれば、よりバラエティのあるデータを取ることもできる。そこで「きゃらばん・サブミリ計画」が立ち上がった。
きゃらばん・サブミリ計画では、アンデス高地を移動しながらへら絞りのアンテナで観測を行い、各地の固定望遠鏡とも連携しながら「VLBI(超長基線電波干渉法)観測」によってブラックホールの撮影を目指す。
山の上で行うのは、サブミリ波を吸収する水蒸気を避けるためだ。
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