ブラックホールの姿を撮影するために、へら絞りでパラボラアンテナを作る:ブラックホール撮像とへら絞り(1)(2/2 ページ)
誰も成功したことがないブラックホールの撮影に挑戦したい――その撮影に使うのはへら絞り(※)製のパラボラアンテナだ。国立天文台 電波研究部 助教の三好真氏は、安価な加工法として検討をはじめたへら絞りが、思いのほか加工精度がよく、かつアンテナ精度向上にもつながりそうだと気付いたという。現在、へら絞り加工の精度について詳しく研究するため、クラウドファンディングにも挑戦中だ。三好氏に、へら絞りに出会った経緯や、本格的に研究しようという考えに至った理由について聞いた。
目標は直径2m、残差30μmのアンテナ
三好氏はへら絞り加工によるパラボラアンテナの検討を開始した。似たような先例はあった。早稲田大学に設置されていた64素子干渉計だ。直径約2mのアルミ製パラボラアンテナを64枚作成して天文研究を行っていた。「ただし、はじめはへら絞りによるパラボラ面の精度はよくないのではといわれていました」と三好氏は話す。
最終的に目標とするのは2.2mの大きさだ。三好氏にへら絞りを提案してくれた人の予測だと、残差(理想的なパラボラ面からのずれ)は300μmくらいではないかということだった。ブラックホールを見るのであれば、より高精度のパラボラ面がほしい。そこで小型のものをいくつか作って測定してみようということになった。2009年のことだ。
加工は64素子干渉計を作成した、東京都大田区の北嶋絞製作所に依頼することにした。古い90cmのパラボラアンテナ用の金型を用いて、厚さ1.5および3mm厚のアルミ圧延板で、縁の仕上げがフラットなものおよび縁を丸く丸めたものの合計4種類を作成した。
計測のための固定にはいろいろと苦労したという。計測は先端技術センターにあるミツトヨの接触式の装置で行った。先端にルビーの球が付いた端子で対象物の表面をなぞり、球の中心の座標を記録する。先端技術センターでは、それまで厚く変形しないものしか測定したことがなかったという。
「例えばペラペラの紙皿を中心点だけで支えたりすればたわみます。さらに固いプローブでふれると当然、形状は変わってしまいます」と計測を行った国立天文台 先端技術センター 主任技術員の三ツ井健司氏は話す。
薄い板金で作られたへら絞りの製作物を測定しようとすると、測定部がたわんでしまい、うまく測定できない。三好氏はどのような工夫をして測定に取り組んだのか。次回は、測定方法の試行錯誤やその結果について紹介する。(次回に続く)
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