パナソニックがArmと自動車の「ソフトウェアファースト」を推進:車載ソフトウェア
パナソニック オートモーティブシステムズとArmはソフトウェアデファインドビークルのアーキテクチャ標準化を目指す戦略的パートナーシップに合意した。
パナソニック オートモーティブシステムズとArmは2024年11月7日、ソフトウェアデファインドビークル(SDV)のアーキテクチャ標準化を目指す戦略的パートナーシップに合意したと発表した。パナソニック オートモーティブシステムズはArmの仮想デバイスフレームワーク「VirtIO」を採用し、自動車のソフトウェア開発をハードウェアから分離し、開発サイクルを加速させる。また、ArmプロセッサをベースにしたSDVの標準化団体であるSOAFEEへの積極的な参加を通じて協力していく。
パナソニック オートモーティブシステムズは、こうしたソフトウェア開発環境の整備に取り組むことで、自動車メーカーやティア1サプライヤーが直面している課題解決につなげる。
「これまでに開発したソフトウェア資産をハードウェアに実装する際、ハードウェアとソフトウェアのインタフェースがベンダー固有の独占的なものだとソフトウェアの再利用性や可搬性が損なわれる。インタフェースを標準化して統一することで再利用性を高める。ハードウェアとしても、最新世代のソフトウェアソリューションを採用しやすくなるメリットがある」(パナソニック オートモーティブシステムズの中尾象二郎氏)
両社のパートナーシップでは、VirtIOベースのディスプレイ仮想化技術「Unified HMI」を利用したゾーンアーキテクチャの標準化に取り組む。VirtIOはコックピットドメインコントローラーやハイパフォーマンスコンピュータのようなセントラルECU(電子制御ユニット)や周辺のゾーンECUに接続されたデバイスを仮想化する。
これにパナソニック オートモーティブシステムズがオープンソース化したUnified HMIを組み合わせ、複数のディスプレイを搭載したコックピットでのユーザーエクスペリエンスの開発をアジャイルに進めることができる。
Unified HMIは、複数のディスプレイを仮想的に統合して1枚のディスプレイとして制御する。車両にはヘッドアップディスプレイ(HUD)のようにさまざまなディスプレイが搭載されているが、各ディスプレイにひも付いた固有のECUでは情報を最適な場所に表示するのは難しい。Unified HMIはアプリケーションを表示するディスプレイやレイアウトを自由に検討できるようにする。
こうしたアーキテクチャにより、アプリケーション全体を変更することなく、セントラルECUから複数のゾーンECUにGPUの負荷を分散。セントラルECUの発熱低減や、ゾーンECUの物理的な最適配置とハーネス重量削減につなげる。さらに、ゾーンECUで「Mali G78AE GPU」が持つパーティショニング機能を活用して異なるワークロードごとに専用のハードウェアリソースを割り当てて、ワークロードごとにグラフィック性能を保証できるようにする。
現在、実際に実装して評価するPoC(概念実証)を進めている。両社はSOAFEEに対してこれらのユースケースドキュメント(SOAFEE Blueprint)やレファレンス実装を推進し、ゾーンアーキテクチャの標準として自動車業界に普及させる。
リアルとバーチャルの同一性も確保
VirtIOによるデジタルツインなクラウドネイティブの開発環境「vSkipGen」でもArmとの協力が生かされている。パナソニック オートモーティブシステムズはArmのNeoverseベースのクラウドサーバ上で動作するvSkipGenにより、Arm CPUアーキテクチャとVirtIOの同一性を確保する。クラウド上の仮想ハードウェアと自動車に搭載される物理的なハードウェアの間で完全な環境パリティを確保する。
Armとパナソニック オートモーティブシステムズは、Android AutoやAutomotive Grade Linuxなどコックピットのユースケースに焦点を当ててVirtIOの普及を目指す。リアルタイムOS向けのインタフェース標準化も含まれており、ADAS(先進運転支援システム)のソフトウェアをハードウェアから分離することもできる。
パナソニック オートモーティブシステムズの中尾氏は「SDVで最も重要なのは、ソフトウェアを使ってクルマの価値を向上させることだ。そのためにも、ソフトウェアを更新/進化させやすい形にしてイノベーションを加速させなければならない。ハードウェアの仕様を決め、出来上がってからソフトウェアを開発するというやり方も変える必要があり、ハードウェアが出来上がる前にソフトウェアを開発する“ソフトウェアファースト”の実現に向けた取り組みを推進している。ソフトウェアとハードウェアを分けて開発するため、デバイスを仮想化する」と取り組みの重要性を述べた。
“移心地”にはAIが必要
パナソニック オートモーティブシステムズは、ソフトウェアファーストの実現に向けた取り組みだけでなく、車両へのAI(人工知能)の適用にも注力している。中尾氏は「自動車の安心安全や快適のためにAIの適用は不可欠だ。パナソニックとしては移動の心地よさ、“移心地”で世界一を目指すためUXの開発に力を入れており、コックピットやキャビンにAIを適用してユーザーとの対話やパーソナライズに活用したい」
「巨大なAIモデルを処理する上でクラウドの豊富な計算リソースの活用が役立つ一方で、リアルタイム性やセキュリティへの対応も求められる。クラウドではなく車載器で処理する必要もある。限られた計算リソースの中で、AIの精度と処理スピードを両立するようなエッジ技術の確立を目指す」(中尾氏)。
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