炭素原子のベルト状分子の水溶化に成功、哺乳類細胞内への導入挙動を発見:研究開発の最前線
理化学研究所と名古屋大学は、炭素原子のベルト状芳香族分子であるナノベルトの水溶化に成功した。合成したナノベルトを用いてバイオイメージングを実施し、分子ナノカーボンの細胞導入挙動も明らかにした。
理化学研究所は2024年10月18日、炭素原子のベルト状芳香族分子であるナノベルトの水溶化に成功したと発表した。合成の後期段階で水溶化のための官能基を導入し、2段階の手順で合成できる。合成したナノベルトを用いて、分子ナノカーボンの細胞導入挙動も明らかにした。名古屋大学との共同研究による成果だ。
今回の研究では、独自開発のベルト状分子ナノカーボン「メチレン架橋シクロパラフェニレン(MCPP)」の水溶化を図った。まず、ベンゼン環が6個含まれる[6]MCPPにアルキニル基を1つ導入し、そのアルキニル基に水溶性ユニットのフルオレセイン誘導体(蛍光分子)をクリック反応で結合して[6]MCPPに水溶性を付与した。
作製した水溶性ナノベルトを含む培地で哺乳類細胞を培養したところ、ナノベルトは30分後には細胞膜に局在していたが、2時間後には細胞内に取り込まれて拡散していた。密度汎関数理論計算で[6]MCPPの内部空間とアミノ酸との相互作用を計算すると、[6]MCPPがリシンを捕捉して複合体を形成する可能性が示された。このことから、細胞表層のタンパク質や脂質とのホスト−ゲスト複合化を鍵として、水溶性ナノベルトが細胞内に取り込まれる可能性が推論される。
アルキニル基で官能基化したナノベルトは、他の分子とのクリック反応にも利用できることから、水溶性以外の特性付与も可能だ。また、哺乳類細胞内における動態の解明により、ナノカーボン材料の生物分野への応用が期待される。
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