温和な条件下で持続的にアンモニアを合成する金属クラスター触媒を開発:研究開発の最前線
理化学研究所は、無数の微細な穴に、6原子程度で構成される金属クラスターが取り込まれた触媒を開発した。この触媒を用いて、大気中の窒素からアンモニアを低い温度で持続的に合成することに成功した。
理化学研究所は2024年1月22日、無数の微細な穴に、6原子程度で構成される金属クラスターが取り込まれた触媒を開発したと発表した。この触媒を用いて、大気中の窒素(N2)からアンモニア(NH3)を低い温度で持続的に合成することに成功した。東京大学、北海道大学との共同研究による成果だ。
研究では、ハロゲンが配位した6原子のモリブデン(Mo)から構成されるクラスターを活用。1nm以下の細孔を持つ多孔質担体ゼオライトにクラスターを担持させ、水素流通雰囲気下600℃で加熱したところ、全てのハロゲン配位子が外れた後も、6原子から成るMoクラスターが原子の数をほぼ維持したまま細孔に入り込んだ。
このゼオライトに、N2と水素(H2)の混合ガスを反応させると、10気圧下400℃で約260時間、50気圧下200℃で約520時間、アンモニアが一定のペースで生成できた。200℃の反応としては過去最長レベルとなっており、細孔に取り込まれたMoクラスターは、比較的温和な条件下でもアンモニアを持続的に合成できることが分かった。
またMoは、鉄(Fe)触媒に比べてN2の窒素−窒素三重結合の切断能が高い。理論計算によると、Moクラスター触媒では、Mo原子が協同的に働くことで、窒素−窒素三重結合を効率的に切断することが明らかとなった。つまり、Moクラスター触媒は、安定なN2の活性化に高い能力を備える。
NH3は、肥料や窒素原子を含有した化学製品の原料として使用されている。ハーバー・ボッシュ法により、N2とH2からFeの固体触媒を用いて合成されるが、150〜350気圧下350〜550℃の高圧高温条件が必須とされていた。
今回開発した触媒は、特別な成分を使用せず、従来のハーバー・ボッシュ法に比べて温和な条件下で、N2を効果的、持続的に切断できる。今後、触媒の改良や活性向上により、安全かつ大量にアンモニア合成する触媒の実用化が期待される。
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