スーパーコンピュータ「富岳」が完成:製造ITニュース
富士通と理化学研究所が共同で開発、整備を進めてきたスーパーコンピュータ「富岳」が完成した。学術、産業分野向けに広く提供するため、理化学研究所と高度情報科学技術研究機構は富岳の共用を開始した。
富士通は2021年3月9日、理化学研究所(理研)と共同で開発、整備を進めてきたスーパーコンピュータ「富岳」が完成したと発表した。富岳を学術、産業分野向けに広く提供するため、理研と高度情報科学技術研究機構(RIST)は、同日より共用を開始した。
富岳は、文部科学省が推進する「革新的ハイパフォーマンス・コンピューティング・インフラ(HPCI)」の中核システムとして、2014年に富士通と理研が共同開発を開始。2020年5月に筐体の搬入を完了し、共用開始に向けた開発や利用環境整備を進めていた。
2020年4月からは、「スーパーコンピュータ「富岳」成果創出加速プログラム」「新型コロナウイルス対策利用」などで試行的に利用されている。また、同年6月と11月に、スーパーコンピュータの性能ランキング「TOP500」「HPCG」「HPL-AI」「Graph500」の4部門で、2期連続世界第1位を獲得する実績を残している。
富岳は、スーパーコンピュータ「京」の100倍となるアプリケーション実効性能を備え、高解像度、長時間、大規模、多数ケースのシミュレーションに対応する。畳み込み演算性能に優れたCPUが通信性能の良いネットワークで接続され、AI(人工知能)やデータサイエンスにも活用できる。さらに、多数のシミュレーション結果を学習データとしてAIが活用するなど、シミュレーションとAI、データ科学の融合を世界最高水準で実施できるという。
これらの性能により、高速かつ高精度な創薬シミュレーションによる新薬開発、気象ビッグデータ解析による竜巻や豪雨の的確な予測、次世代産業を支える新デバイス、材料創成の加速化など、さまざまな領域での成果が期待される。
今後RISTでは、成果創出加速プログラムを継続するとともに、一般公募によって2021年度の一般利用・産業利用課題74件を採択。さらに、早期成果創出を狙う小規模な課題、アプリケーションの動作検証や性能評価を試行する課題を募集している。
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