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「富岳」で新型コロナ飛沫の大量計算を実施、感染リスクはどこにある?CAE最前線(1/3 ページ)

理化学研究所のスパコン「富岳」を用い、コロナウイルス感染症(COVID-19)に関する飛沫の飛散シミュレーションが実施されている。理化学研究所が独自開発する流体シミュレーションソフトウェア「CUBE」による飛散シミュレーションの概要、注目すべき結果などについて、理化学研究所 計算科学研究センター チームリーダー/神戸大学大学院システム情報学研究科 教授の坪倉誠氏に話を聞いた。

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 理化学研究所のスーパーコンピュータ(以下、スパコン)「富岳」において、コロナウイルス感染症(COVID-19)に関する飛沫の飛散シミュレーションが実施されている(課題名「室内環境におけるウイルス飛沫感染の予測とその対策」)。

 理化学研究所 計算科学研究センター チームリーダー/神戸大学大学院システム情報学研究科 教授の坪倉誠氏らは、大規模並列計算を前提に開発した超大規模熱流体ソフトウェア「CUBE」が飛散のシミュレーションに使えると、富岳におけるCOVID-19に関する課題募集に応じた。課題代表者の坪倉氏は「実体をイメージできないから平気でマスクを外したり、『うつらない』と言えてしまったりすると思う。飛沫を見える化して、啓発・対策へとつなげていきたい」と語る。坪倉氏にCUBEの特徴やシミュレーションの概要、注目すべき結果などについて話を聞いた。

シミュレーションフレームワーク「CUBE」とは

 CUBEは、理化学研究所が独自に開発している流体シミュレーションソフトウェアである。圧縮・非圧縮性の流体解析に加えて、変形などの構造解析や火炎などの化学反応、今回のような混相流、さらに音響などの複雑現象を統一的に扱うことができる。大きな特徴は、階層直交格子を採用していることだ。形状の複雑さに応じて段階的に格子を細かくし、必要度の低い場所は格子点数を減らすことができる。また、直交格子積み上げ法(Building Cube Method)を採用しており、直方体のデータ構造によりプログラムが簡易になる、スパコンのような並列CPUの構造において性能を出しやすいといったメリットを有する。

超大規模熱流体解析ソフト「CUBE」による空力・車両運動連成シミュレーション
図1 超大規模熱流体解析ソフト「CUBE」による空力・車両運動連成シミュレーション(提供:理化学研究所、協力:トヨタ自動車・国土交通省) [クリックで拡大]

 CUBEの開発は、モノづくり分野をターゲットとして2012年ごろにスタートした。自動車周辺の空気の流れ場やエンジン内部の流れ場などを得意としている。エンジン内部のように運動や化学反応を伴う複雑な計算では、従来はデータのやりとりが発生し、大幅に効率が落ちていた。CUBEはそういった複雑な現象にも対応できるソフトになる。また、超並列状態を念頭に置いたソフトウェアではあるが、普通のコンピュータでも使えるよう対応している。

 メッシュ作成については、形状周辺の解像度だけを指定すれば、全て自動で生成される。数千から数万の部品からなる自動車の場合、流体解析のメッシュを切ろうとすると、通常は形状修正や隙間の補間、部材のオーバーラップなどについて手作業で修正する必要がある。CUBEでは埋め込み境界法(Immersed Boundary Method)の適用に工夫があり、それらの修正が全く必要ない。そのためCADデータの読み込み、メッシュ作成がトータルで1時間以内に収まり、「メッシュを切っている」という感覚はほぼないという。

マスクは実験値を採用、マスクの隙間を加味してシミュレーション

 飛沫抑制に効果があるとされるマスクについては、形状をモデル化するのではなく実験データを採用している。例えば、不織布は孔径が0.5〜15μm程度であり、細かい繊維を全てモデル化することは現実的ではない。そのため、マスクに関しては実験データを用い、1テーマにつきCPU1000個を使って数十ケースを流すといった“回数を多くこなす方針”をとっている。なお、富岳は本格稼働予定が2021年であることから、現在も開発、整備が進行中である。そのため24時間稼働はしておらず、調整の合間を縫ってシミュレーションを行っているという。

 咳などで発生する飛沫のサイズごとの分布については、実験および過去の文献データを用いている。図2は咳をしたときの分布図であり、10μm辺りを中心としておよそ1〜数百μmの間に正規分布している。発生する全粒子の個数は、1回の咳で1万5000個、発話で9000個程度としている。また、飛沫の振る舞いは粒径がおよそ5μmを境に変化するため、5μm以下をエアロゾル(空気中を漂う微細な粒子)としている。大きな飛沫は口から出るとほぼ重力に従って落ちていくが、小さいとすぐには落ちず、気流に乗ってしばらくの間、空気中をただよう。

咳をしたときに発生する飛沫の粒径分布
図2 咳をしたときに発生する飛沫の粒径分布(C.Y.H.Chao et al./Aerosol Science 40(2009)122-133より) [クリックで拡大]

 また、マスクの素材ごとに圧損のデータを取得するとともに、素材に対する各サイズの飛沫の透過率のデータを実験または文献により取得した。圧損があるため、空気の一部はマスクの周囲からも飛び出す。現実には一般向けのマスクをぴったりと付けることはできないため、隙間ができる条件でシミュレーションを行っている。

マスクから飛沫が飛び出る様子のシミュレーション
図3 マスクから飛沫が飛び出る様子のシミュレーション(提供:豊橋技科大・理化学研究所・神戸大、協力:京工繊大・阪大・大王製紙) [クリックで拡大]

 飛沫は、水と仮定してシミュレーションを行っている。実際の飛沫はタンパク質などの不純物を含むため、いずれチリになる。実験でも0.3〜0.5μm程度になると蒸発が止まることが分かっており、シミュレーションでは0.5μmになった時点で蒸発を止めている。

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